2025/07/04(金)

GIGAスクール構想で1人1台端末の環境が整備され、既に端末の更新時期を迎えた自治体や学校も多いのではないでしょうか。
本記事では、NEXT GIGAの方向性や今後の課題を解説します。2つの高校の実践事例も紹介しているので、ぜひ教育現場での取り組みの参考にしてください。
GIGAスクール構想とは
最初にGIGAスクール構想の概要と第1期の取り組み、さらに文部科学省が描く教育の未来像を確認しましょう。
GIGAスクール構想の目的と定義
文部科学省は、GIGAスクール構想を通じて「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指しています。
GIGAスクール構想はICTを活用し、学習履歴にもとづき個々の能力・特性に合わせた学びを提供するのが目的です。さらに文部科学省は、他者と協力して課題解決や新たな価値創造ができる、AI時代を生き抜く創造性豊かな人材の育成を描いています。
第1期(2020~2023年度)の取り組み内容
第1期の主な取り組み内容は、ハードウエアの整備とネットワーク環境の構築です。ハードウエアの整備では、全国の小中学校のICT活用基盤となる1人1台端末の配備などを進めました。ネットワーク環境の構築では、高速かつ大容量のネットワーク環境が整備されました。
第1期は、誰一人として取り残すことのない新たな学びの基礎を築いた期間です。次の活用フェーズへの準備期間と位置付けられています。
文部科学省が描く教育の未来像
文部科学省がGIGAスクール構想の先に描いているのは、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実させることです。ICTの利活用により、両者をバランス良く実現しようという意図があります。
さらに、ICTを活用して子どもたち1人ひとりの興味・関心・学習の進捗状況に合わせて指導します。この指導は同時に他者と協力し、新たな価値を創造する力を育むものです。
文部科学省は、単なる知識の習得にとどまらず、社会で活躍するための実践的な力の育成を重視しています。
NEXT GIGAとは?第2期の新たな方向性

ここではGIGAスクール構想の第2期として位置付けられる、NEXT GIGAの方向性を解説します。
端末更新とクラウド活用の進化
GIGAスクール構想では、1人1台端末を整備しました。NEXT GIGAでは、中長期にわたるICT環境の更新・整備を計画しています。子どもたちが常に最新の学習環境で学べるようにするためです。
NEXT GIGAの代表的な取り組みは、定期的に1人1台端末を更新するサイクルの確立や、大容量かつ高速のネットワーク整備です。クラウドサービスやデジタルコンテンツの活用が進むにつれて、学校のネットワークには高い負荷がかかってくるからです。学習環境の充実には、安定したネットワークの整備が欠かせません。
「誰一人取り残さない」教育の具体策
子どもたちには家庭の経済状況や地域差、本人の特性があります。
その状況にかかわらず、誰一人取り残さない教育を日本では果たしてきました。具体的には以下の3つの役割を重視し、継承する必要があります。
- 学習機会と学力の保障
- 社会の一員としての発達・成長の保障
- 安全安心な居場所、身体的・精神的な健康の保障
今後の方向性は次の2つです。
- 学校現場に負荷をかけ過ぎず、学校や教師がすべき業務などを厳選できる
- 一斉授業か個別学習かのような二者択一ではなく、両者の良さを組み合わせて生かしていく考えを優先
令和の日本型学校教育との関係性
日本型学校教育は、明治時代から蓄積された伝統を受け継ぎながら、発展を目指しています。特に学校現場の働き方改革とGIGAスクール構想を推進し、新学習指導要領を実施する必要があります。
従来の正解主義や同調圧力から脱却し、子どもたち1人ひとりの多様性に向き合い、チームとしての学びへ高めていくことが重要です。
GIGAとNEXT GIGAの違いとは

GIGAは物理的な環境を整備し、NEXT GIGAは整備された環境を更新しICT教育を推進します。
インフラ整備から活用フェーズへ
GIGAでの整備から、NEXT GIGAでの活用フェーズへの移行を表でまとめました。
| GIGA | NEXT GIGA | |
|---|---|---|
| 端末 | 1人1台端末を整備 | 2028年度までに更新(※1) |
| ネットワーク | 高速・大容量のネットワーク環境の整備 | 全ての学校で安定したネットワーク環境の整備・強化 |
| ICT | ICTを活用した授業を導入 | 教員研修を強化しICTを活用する授業を促進 |
NEXT GIGAでは、端末の持ち帰りを促進することで家庭学習を支援します。
学びの保障から学びの改革へ
GIGAで重点的に実施されたのは、1人1台端末の整備と高速通信ネットワークの整備です。学習機会の格差是正を目指し、全ての生徒がICTを活用した学習に取り組めるようになりました。
NEXT GIGAでは、個別最適な学びや協働的な学びの実現を目指しています。1人1台端末を利活用した授業の多様化や、生徒同士の交流を深めるのがICTツールの活用目的です。
教員の役割と支援体制の変化
GIGAスクール構想の初期段階では、教員にはICTを活用する指導力を高める必要性が指摘されました。
NEXT GIGAでは、教員に以下の役割が求められています。
- ICT活用を日常化した指導力の向上
デジタルツールを使った授業運営に慣れる - 個別最適な学びの実現
- 学習データの活用により生徒1人ひとりの理解度・苦手分野をリアルタイムで把握する
- 個別に最適な教材・学習方法・フィードバックを提供する
GIGA活用ポイント

学校のICT教育でGIGAを活用するには、ICT支援員の配備と教員への研修が重要です。外部の企業や講師と連携している学校や教育委員会も見られるようになりました。
ICT支援員の活用と校内研修の充実
学校のICT化を支える制度の1つに、ICT支援員が挙げられます。ICT支援員は業務に応じた知見を有する方です。教育委員会などがICT支援員を学校に配置し、教員のICT活用をサポートします。
ICT支援員の主な業務内容は次の通りです。
- 授業計画の作成支援
- ICT機器の準備・操作支援
- 校務システムの活用支援
- 研修支援やメンテナンスの支援など
また、学校ではICTの活用や指導力を向上させるため、校内研修を実施し研修制度の充実を図っています。
民間企業や外部講師との連携
校内研修では、研修担当者がリソース不足に陥りやすくなるのがデメリットです。一方で、民間企業や外部講師と連携すると、学校側の準備が少なくなり研修を受けやすくなります。
特にICT分野であれば、民間企業や実績のある専門講師が持つノウハウは高いでしょう。民間企業や外部講師と連携するメリットは以下の3つです。
- さまざまな分野のプロフェッショナルによる高品質な研修の受講
- 新たな情報や知見の獲得
- 学校の研修担当者の負担軽減
ただし、研修受講に際しては受け身にならないようにすることが重要です。
学校現場での実践事例

ここでは2つの高校の実践例を紹介します。
惺山高等学校(山形県)
惺山(せいざん)高等学校では、2019年に山形県内で初めて1人1台のChromebookを導入しました。同校は2018年からICT教材の「すらら」を導入し、導入校の視察やChromebook導入の際にすららから支援を受けICT化を進めています。
同校がICTの導入で実現したかったのは、生徒が強みを生かして未来を切り開く活動である探究学習です。現在はICTツールを文房具のように使いこなし、生徒と教員のスキルが向上しています。
ICTの活用は遠隔地とつながることを可能にし、地方の地理的な制約を乗り越える一助となります。
長野県坂城高等学校
坂城(さかき)高等学校は、2021年に「デジタル社会推進賞」のプラチナ賞に選ばれました。経済産業省の「未来の教室」の実証事業に選定されたことがきっかけです。
すららも「未来の教室」に参画し、2019年度から同校と取り組みを進めています。同校で特筆すべきは、すららの使用前後において「英語診断テスト」の結果が約3倍に向上したことです。(※2)
すらら導入後は、主体性を持った生徒が増加しました。生徒1人ひとりの理解度に合った授業を展開できたためといえるでしょう。
GIGAスクール構想の今後と課題

以下ではGIGAスクール構想の今後の課題と展望を見ていきましょう。
情報モラル教育とセキュリティの強化
情報モラル教育は生徒を対象として、情報に関する理解度を教科の中で身に付ける取り組みです。情報化社会では、さまざまな情報が生徒の目や耳から入ってきます。生徒を守るために、倫理観や道徳を理解する情報モラル教育は強化すべきといえるでしょう。
セキュリティー対策は、個人情報の漏えいを防ぐためにさらに強化されます。一方でセキュリティーが強いために、一部のサイトにアクセスできない問題が生じやすくなる懸念もあります。
生成AIやEdTechとの連携可能性
実践事例で紹介した「未来の教室」でも生成AIを活用した実証実験が始まっています。生成AIの使用は、文部科学省の「生成AIの利用の暫定ガイドライン」にもとづいています。
ただし、生徒が生成AIの誤った情報を利用しないよう、的確なアドバイスが必要です。電子黒板やタブレットなどを使用するEdTechは、教育への生成AIの導入に伴い使い方が変わることが予想されます。授業の準備や事務処理にかける時間が少なくなるよう、適切に活用していきましょう。
持続可能なICT教育への展望
ICT教育の授業への活用は、地域や学校によって格差があります。既に端末を活用し用途を広げている学校があるものの、思ったように端末の活用が進まない学校もあるでしょう。
一方で、教員にはICTスキル習得の時間が必要です。ICT支援員など外部人材の活用が求められます。他校の実践事例を参考にしつつ、デジタルの強みを生かせる部分は積極的に取り組んでいきましょう。
まとめ

NEXT GIGAは、整備された環境を更新しICT教育を推進します。ICT活用を日常化し、指導力を向上させる上で、教員の役割は大きくなっています。
実践事例にもあったように、ICTの活用は地域格差の解消が可能です。生徒1人ひとりの理解度や、学習スピードに合った授業を展開できるかがNEXT GIGAの課題となるでしょう。

