思考ツールとは?種類や使い方、授業での実践例を徹底解説

2025/10/02(木)

授業方法/学習指導

探究学習

生徒の思考力を伸ばすには、どのような思考ツールを授業で活用すればよいのでしょうか。

この記事では、授業で実際に使える思考ツールの種類や使い方を詳しく解説します。この記事を読むと、生徒の思考力を育てる具体的な授業設計のイメージが持てるようになります。


思考ツールとは

思考ツールは、複雑な情報を視覚的に整理し、論理的思考を促進するための道具です。思考ツールを使用することで、分類・比較・関連付けといった思考プロセスが明確になります。

代表例として、2つの要素の共通点や相違点を示すベン図があります。このツールはイギリスの数学者ジョン・ベンが考案したものです。ベン図は、教育現場で幅広く活用されています。

他にも魚の骨の形をしたフィッシュボーン図、階層構造を表すイメージマップなど、目的に応じて選択できる多くの種類が存在します。


思考ツールを使うメリット


授業で思考ツールを活用すると、生徒の学習効果が大幅に向上する点がメリットです。以下でメリットを紹介します。

複雑な関係性を整理できる

生徒は多くの要素が絡み合う問題でも、視覚的に構造化して理解を深められます。思考ツールは散在する情報を体系的に配置し、相互の関連性を明確にするからです。

歴史の授業では、戦争の原因として経済・政治・社会の要因を分けて整理できます。文学の授業なら、登場人物の関係性や心情の変化を図式化することで、複雑な人間関係が一目で把握できます。

複雑な内容を分かりやすく構造化することで、生徒は物事の本質的な関係性を理解しやすくなるでしょう。

抽象的な考えを具体化できる

生徒は漠然とした概念や理論を具体的な形で表現し、理解を深められます。思考ツールは抽象的な内容を視覚化し、思考プロセスを明確にするからです。

例えば倫理の授業で「正義」の概念を扱う際、事例を分類して整理することで抽象的な理念が具体的に理解できます。総合探究の時間に社会問題を考える際も、原因と解決策を可視化することで、抽象的だった課題が具体的な行動計画に変わります。

思考の中身が見えることで、生徒同士の対話も促進され、主体的な学びにつながるでしょう。

意見の違いや共通点を比較できる

生徒は複数の立場や観点を整理し、論理的な判断力を身に付けられます。思考ツールは異なる意見を明確に分類し、比較検討を可能にするからです。

古典の授業では、複数の解釈を並べて比較することで作品への理解が深まるでしょう。比較分析を通じて、生徒は多角的な視点で物事を捉える力を養い、建設的な議論ができるようになります。


思考ツールの代表的な種類と使い方


教育現場では目的に応じてさまざまな思考ツールが活用されており、それぞれに特徴的な機能があります。

ベン図

ベン図は、複数の要素間の共通点と相違点を明確に分析できる思考ツールです。円の重複部分で共通要素を、独立部分で固有要素を視覚的に示すからです。

国語の授業で2つの文学作品を比較する際、作品Aと作品Bを円で表現し、重複部分に共通するテーマを記入します。現代社会では民主主義と社会主義の比較分析に活用でき、重複部分には「国民の代表制」などが配置されるでしょう。

このように異なる概念の関係性を整理することで、生徒は比較する思考力を身に付けられます。

ステップチャート

ステップチャートは、目標達成に必要な手順を順序立てて整理できる思考ツールです。最終目標から逆算して、必要なプロセスを段階的に配置するからです。

総合探究で地域課題解決に取り組む際、「課題発見→情報収集→分析→解決策検討→実行計画」という段階を明確にできます。国語の小論文指導では「テーマ理解→論点整理→根拠収集→構成作成→執筆」の流れを示すことで計画的な学習を支援できるでしょう。

複雑なプロジェクトを小さなステップに分解することで、論理的思考力を育成できます。

イメージマップ

イメージマップは、1つの概念から関連する情報を広げて整理できる思考ツールです。中心の概念から放射状に線を引き、関連要素を枝分かれさせて展開するからです。

地理の授業では「環境問題」を中心に、「温暖化」「森林破壊」「海洋汚染」といった要素を関連付けて整理できるでしょう。情報を視覚的に体系化することで、生徒の理解が深まります。

フィッシュボーン図

フィッシュボーン図は、問題の根本原因を段階的に分析できる思考ツールです。魚の骨のような構造で、大きな原因から小さな要因までを体系的に整理するからです。

現代社会の授業で「少子高齢化」を分析する際、頭部に問題を配置し、大骨に「経済要因」「社会要因」、小骨に詳細要因を記入します。根拠となる論点を段階的に整理することで、論理構造が明確になるでしょう。

Xチャート

Xチャートは、物事を多角的に分析する際に便利な思考ツールです。紙や画面に大きな「X」を描き、4つの領域に分割します。それぞれのマスに異なる条件やテーマを設定し、関連するアイデアや情報を記入します。

Xチャートは、複数の視点から情報を同時に比較でき、自分や他者の意見を整理しやすくなるツールです。最適な判断やアイデアの選択がしやすくなるため、授業での議論や学習にも効果的です。

マトリクス(表)

マトリクスは、2つの軸を用いて情報を整理し、項目間の関係性を分析する手法です。縦軸と横軸に「重要度」「緊急度」といった、異なる評価項目を設定します。

それぞれの項目が交差するマスに情報を書き込むことで、考えを整理していきましょう。進路指導で「興味」と「適性」を軸に、生徒一人ひとりの強みを可視化する際に活用できます。

複雑な情報も視覚的に分かりやすく分類できるため、優先順位付けや意思決定をサポートする思考ツールとして有効です。

クラゲチャート

クラゲチャートは、中心に置いた1つの「問い」から、放射状に考えを広げていく思考ツールです。その名の通り、クラゲのような見た目が特徴といえます。

まず「なぜ〇〇か?」といった探究テーマを中央に置きます。そこから伸びる足に、問いの答えや関連するキーワード、新たな疑問などを書き足し、思考を可視化していきましょう。

単にアイデアを拡散させるだけでなく、問いを中心に考えを構造化できるのがメリットです。生徒が物事を多角的に深掘りする訓練に適しています。

KWLチャート

KWLチャートは、効果的に教材を理解させるために開発された思考ツールです。Kは「知っていること」、Wは「知りたいこと」、Lは「学んだこと」をそれぞれ記入する3つのマスがあります。

KWLチャートで情報を視覚的に整理することで効率良く学習が進み、自分の理解度も把握しやすくなります。

知識を共有することで、コミュニケーションがスムーズになり、授業の質向上も期待できるでしょう。教育現場での活用に適した実践的なツールです。

座標軸

座標軸は、縦軸と横軸に設定する観点で情報の見え方が変わる思考ツールです。数学では数値を厳密に扱いますが、思考ツールとして使う場合は感覚的・相対的に情報を配置します。横軸に時間軸を設定し、変化を連続的に捉えることも可能です。

グループで議論しながら書き出し、整理することで考えを深めやすくなります。完成した座標軸から特徴を見つけ、議論の視点を絞ることが重要です。


学校教育における思考ツールの活用方法


学校教育では、総合的な学習の時間を軸に各教科で思考ツールを効果的に活用できます。育てたい思考スキルに応じて適切なツールを選択することが重要です。

総合的な学習を中心に各教科で活用できる

教育現場では、個別学習と協働学習で思考ツールが効果的に機能します。個別学習では生徒の思考力向上を目指し、協働学習では共通理解の促進に役立てられるからです。

総合的な学習(探究)の時間は、思考ツールの導入に最適です。学習指導要領でシンキングスキルの指導が明記されており、思考ツールを活用する機会が豊富にあります。

関連付ける・理由付ける・多面的に見る・比較するなどの思考スキルは、全教科に共通して必要な能力です。そのため思考ツールも国語・社会・理科など教科を超えて、幅広い学習場面での活用が期待されています。

育てたい思考スキルに応じて使い分ける

教師は指導目的を明確にし、育成したい思考スキルに適したツールを選択することが重要です。ツール選択を先に決めると、思考力育成の目的が曖昧になる危険性があります。

「この単元で比較する力を身に付けさせたい」など、具体的な思考スキル設定が授業成功のポイントです。

明確な目標により生徒の思考が整理され、対話や活動も活性化するでしょう。生徒もワークシートを埋めることを目標とせず、記入内容から新たな発見を得ることで学習効果が向上します。


思考ツールを使った授業での実践例


実際の教育現場では、各教科の特性を生かした思考ツール活用が効果的に行われています。現代文Bと地理Aでの活用方法を確認していきましょう。

現代文B|イメージマップで登場人物の心情を深める

現代文Bの授業における心情理解の向上を目指し、イメージマップが効果的に活用されています。石田衣良の小説「旅する本」を扱った授業では、登場人物の内面を深く読み取ることが狙いでした。

授業では本の表紙に描かれた「ピンク色」をキーワードに、生徒がイメージマップで自由に連想を広げます。この思考ツールの導入により、普段は消極的な生徒からも活発な発言が生まれました。教師は生徒のあらゆる発想を受け入れることで、発言への心理的ハードルを下げています。

女性登場人物の心境変化について、生徒がさまざまな解釈を持てるようになりました。イメージマップは想像力を刺激し、文学作品への理解を深める効果を発揮しています。

地理A|Xチャートで世界の住居を比較する

地理Aの授業では、住居と気候の関係を理解させることを目的に、Xチャートが活用されています。「世界の住居の特徴を比べ、その理由を考えよう」をテーマとした授業で、協働的な学びを促進する効果を発揮しました。

授業では世界各地の伝統的住居の写真を資料に、生徒が個人でXチャートに気づいたことを記入します。その後グループで話し合い、班の意見をまとめて発表しました。このツールにより生徒は、住居の違いから気候要素との関連性を視覚的に整理し、論理的に考察できるようになります。

講義中心だった授業は、生徒同士が活発に議論する主体的・協働的な学習に変化しました。


まとめ


思考ツールは、複雑な情報を視覚的に整理し、論理的思考を促進するための道具です。代表的な種類としてベン図、イメージマップ、Xチャートなどさまざまなツールが存在します。学校教育では、総合的な学習(探究)の時間などを軸に、各教科で活用が期待されています。

現代文Bでイメージマップを活用し心情理解を深める例や、地理AでXチャートを使い住居を比較する例を紹介しました。思考ツールを用いる授業の参考にしていただければ幸いです。

 

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