キャリア教育とは?高校での具体例や効果を分かりやすく解説

2025/11/07(金)

進路・キャリア教育

生徒の進路指導を担当する中で、キャリア教育とは何かと改めて考えることはありませんか?キャリア教育は単なる職業紹介ではなく、生徒が社会で自立して生きる力を育む取り組みです。

この記事では、キャリア教育の定義や高校での実践例を分かりやすく解説します。記事を読めば、明日から使える指導のヒントが得られるでしょう。

キャリア教育とは

キャリア教育とは、生徒が社会的・職業的に自立するために必要な力を育む教育活動です。単なる職業紹介ではなく、生きる力そのものを養います。

文部科学省におけるキャリア教育の定義

中央教育審議会が示した定義によれば、キャリア教育は「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」です。定義が生まれた背景には、生徒が自らの力で人生を選択できるよう支援する必要性があるからです。

「学び続けたい」「働き続けたい」と願い、それを実現できる力を育むことが求められています。つまり、キャリア教育は生徒一人ひとりの成長を支え、社会で自立して生きるための土台を築く取り組みといえるでしょう。

キャリア教育と職業教育の違い

職業教育は特定の職業に必要な専門技能を身に付ける教育です。一方で、キャリア教育はどんな職業でも通用する汎用的な力を育てる点が異なります。キャリア教育のほうが広い概念で、その中に職業教育が含まれるイメージです。

例えば、工場実習で旋盤の操作技術だけを学ぶのであれば職業教育です。職場のマナーや規律の大切さ、働く意義まで学ぶならキャリア教育になるでしょう。つまり、専門スキルの習得を目指すのが職業教育で、社会人として必要な土台を築くのがキャリア教育といえます。

キャリア教育と進路指導の違い

進路指導とキャリア教育は目指す方向性が似ていますが、対象となる学校の段階が異なります。進路指導は学習指導要領上、中学校と高校に限定された活動です。一方、キャリア教育は幼児期から高等教育まで継続的に行われるものとされています。

例えば、小学校では職業体験を通じて働く意義を学び、中学校では自己理解を深め、高校では具体的な進路選択を支援するといった流れです。キャリア教育は卒業後の進路だけでなく、人生全体を見据えた長期的な視点で生徒を育てる取り組みといえるでしょう。

キャリア教育が導入される背景


現代社会では、子どもが大人の働く姿を直接見る機会が減少しています。産業の分業化や機械化が進み、大人と子どもの生活圏が分かれたためです。インターネットやテレビから得られる情報は豊富ですが、実際に職場を体験する機会は限られています。

例えば、昔は家業を手伝う中で自然と職業観が育ちましたが、今はそうした場面が少なくなりました。学校は意図的にキャリアを学ぶ場を設け、さまざまな職業の大人と触れ合う機会をつくる必要があります。

なぜキャリア教育が重視されるのか


キャリア教育が重視される理由は以下の通りです。

  • 社会で活躍する力を身に付けられるから
  • 自分の将来像を描くきっかけになるから
  • 将来を見据えて学びのモチベーションを高められるから

社会で活躍する力を身に付けられるから

企業は社内研修を通じて若手を育成していましたが、労働環境の変化により人材育成に時間を割けなくなっています。学校の段階で、社会に出るための基礎的な力を育てる必要が出てきました。

コミュニケーション能力や問題解決力といった汎用的なスキルを、キャリア教育を通じて身に付けることが求められています。社会で即戦力となるための土台づくりがキャリア教育の役割です。

自分の将来像を描くきっかけになるから

進学率の上昇に伴い、高校の段階で将来を考える機会が先延ばしされる傾向があります。進路選択を十分に検討しないと、入学後の学習意欲低下や進路とのミスマッチが起こる恐れが高いのです。

「なんとなく大学に行く」という選択では、学びの目的が見いだせず中退につながるケースもあります。キャリア教育で「どう生きたいか」「社会にどう貢献するか」を考えることが、納得できる進路選択につながるでしょう。

将来を見据えて学びのモチベーションを高められるから

現在の学習が将来にどうつながるのか分からないと、生徒の学習意欲は低下します。中央教育審議会も、キャリア教育には学業と将来を結び付けて意欲を引き出す役割があると指摘しています。

数学の授業で「この知識が建築士の仕事でどう生きるか」を知れば、学ぶ目的が明確になるでしょう。学んでいることの意味を実感できる機会を提供することで、生徒の主体的な学びを促進できます。

キャリア教育で育成すべき4つの基礎的・汎用的能力


キャリア教育で育成すべき4つの基礎的・汎用的能力は下記の通りです。

①人間関係形成・社会形成能力

人間関係形成・社会形成能力は、多様な他者と協力しながら社会に参加していく力を指します。相手の立場を理解し、自分の考えを適切に伝えるコミュニケーション能力が基盤となるからです。

学校行事でリーダー役を務めたり、グループ学習で意見をまとめたりする経験がこの能力を育てます。職場でも異なる価値観を持つメンバーと協働する場面は多く、円滑なチーム運営に欠かせません。人間関係形成・社会形成能力は、社会とつながりながら生きていくための土台といえるでしょう。

②自己理解・自己管理能力

自己理解・自己管理能力は、自分の役割や立場を認識し、前向きに行動する力を指します。日本の若者は自己肯定感が低い傾向にあるため、この能力の育成が重要です。

失敗しても「次はできる」と考えて挑戦を続ける姿勢や、自分の得意分野を理解して目標を設定する力が該当します。部活動でキャプテンとしての役割を自覚したり、苦手科目の学習計画を自分で立てたりする経験が育成につながるでしょう。自己理解・自己管理能力は、キャリア形成だけでなく、自分らしく生きるための基盤です。

③課題対応能力

課題対応能力は仕事や生活で直面する課題を見つけ出し、分析して解決する力です。変化の激しい現代社会やグローバル化に対応するには、従来の方法にとらわれない柔軟な発想が求められるからです。

文化祭の企画で問題が起きた際、原因を探って新しいアイデアで乗り越える経験などが該当します。自分の役割を理解し、主体的に取り組む姿勢を育てる上でも重要です。課題対応能力があれば、予想外の状況にも冷静に向き合い、最適な解決策を導き出せるようになるでしょう。

④キャリアプランニング能力

キャリアプランニング能力は、学ぶことや働くことの意義を理解し、自分の将来を主体的に設計する力です。社会や職業の多様性を知り、自らキャリアを形成していくために欠かせない能力であるためです。

高校で職業調べを行い、興味のある分野の進路を具体的に考える活動がこれに当たります。卒業後の計画を立てるだけでなく、社会人になってからも転職や学び直しを通じて活用される力です。キャリアプランニング能力は、一時的なものではなく生涯にわたって必要とされる重要なスキルといえるでしょう。

キャリア教育がもたらす効果


キャリア教育は生徒の学習意欲向上に大きな効果をもたらします。将来の目標が明確になることで、日々の学びに意味を見いだせるようになるからです。

国立教育政策研究所の調査によると、高校生の学習意欲向上を実感した割合は、キャリア教育計画の充実度によって大きく異なることが分かっています。

  • 充実度が低い学校:31.3%
  • 充実度が中程度の学校:46.6%
  • 充実度が高い学校:65.4%

キャリア教育の取り組みが充実するほど、学習意欲が向上する生徒が倍増するのが実情です。職場体験やキャリアガイダンスを通じて、学びと将来のつながりを実感できることが効果につながっています。(※1)

小中高ごとのキャリア教育の特徴


小学校・中学校・高校でのキャリア教育の特徴は以下の通りです。

小学校のキャリア教育

学級担任が積極的に関わることで、児童の学習意欲向上につながります。全体計画や年間指導計画に重点目標を明確に設定し、組織的に取り組むことが効果的だからです。

例として、4年生で実施される「二分の一成人式」を活用する方法があります。二分の一成人式に向けた対話を通じて、児童が自分の成長を振り返り、家族への感謝を感じながら将来を考える機会になるでしょう。

一人ひとりの思いを大切にする個別支援も重要です。教師が温かい関係を築きながら対話することで、児童が自分らしい生き方を考える土台が育まれます。

中学校のキャリア教育

全校的な推進体制を整えることで、生徒の学習意欲向上につながります。中学校では「生き方や進路に関する現実的探索」が重要な目標だからです。教員は日々の授業や活動が、基礎的・汎用的能力の育成につながると認識する必要があります。

授業、課外活動、委員会活動を個別に行うのではなく、育てたい能力を明確にして相互につなぐ実践が効果的です。職場体験を充実させると、日常生活への積極性が高まることが分かっています。断片的な取り組みにならないよう、学校全体で一貫した計画を立てることが成功するポイントといえるでしょう。

高校でのキャリア教育

体系的・系統的な計画と実践を進める学校ほど、生徒の学習意欲向上が見られます。高校では進路選択が具体化する時期であり、計画的な取り組みが不可欠だからです。

全体計画を策定して教員の共通理解を図り、外部の協力も得ながら実践を進める方法があります。インターンシップや大学との連携授業などを組み込むのも効果的でしょう。

キャリア教育を特定の授業だけでなく、学校の学び全体に関わるものとして位置付けることです。教員全体で意識を共有すれば、生徒の成長を支援できます。

高校が取り組むキャリア教育の具体例


2つの高校が取り組むキャリア教育の具体例を以下で紹介します。

兵庫県立加古川北高等学校

兵庫県立加古川北高等学校は、ジョブシャドウイングという手法を取り入れています。生徒が企業を訪問し、社員の働く様子を観察する活動です。

同校では総合的な学習の時間の代わりに「公共」という科目を設け、キャリア教育・道徳教育・課題教育の3つを軸に展開しています。

ジョブシャドウイングの特徴は、生徒が観察に徹する点です。専門的な知識や技術が必要な職場でも受け入れてもらいやすく、医療や研究といった高度な仕事の現場にも訪問できます。研究所で実験する研究者の姿を間近で見ることで、将来働く可能性のある職業をリアルに感じられるでしょう。

同校の取り組みは、生徒が将来の自分を具体的にイメージするための貴重な機会です。

茨城県立日立工業高等学校

茨城県立日立工業高等学校は、地元企業と連携したキャリア教育を実践しています。生徒が将来に生かせる実践的な力を養うのが目的です。

2年生17名が1年間、地元企業で週1回の技術実習を行いました。実習先は生徒の希望を尊重し、進路に役立つ技術習得を目指します。

受け入れ先は、変電器製造企業でした。生徒たちにとっては、製品製造の責任感や達成感を学ぶ機会となりました。社会人としてのルールや職業観も指導されています。この取り組みで、生徒の技術や職業観、コミュニケーション能力が向上しました。学校と地元企業が新たな協力関係を築いた事例です。(※2)

まとめ


キャリア教育とは、生徒が社会で自立し、豊かに生きる力を育む重要な教育です。将来の目標が明確になることで、学習意欲向上に大きな効果が期待できます。
この記事で解説したキャリア教育の効果や、他校の具体例などを参考に、明日からの指導にお役立ていただければ幸いです。

※1:文部科学省「キャリア教育・進路指導に関する総合的実態調査

※2:文部科学省「高等学校におけるキャリア教育の実践例」(P6)

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