2025/11/25(火)

SSTとは、子どもの対人関係を円滑にするための認知行動療法の1つです。SSTを学ぶことで、さまざまな友人関係に応じた適切な振る舞いや、子どもが社会生活を送る上で必要なスキルを養うことが可能です。
本記事ではSSTの概要や目的について詳しく解説します。併せて、教育現場における具体的な実践方法や教材も紹介しますので、教育に関わる方はぜひご一読ください。
認知行動療法の1つ「SST」とは?

SSTとはソーシャル・スキル・トレーニングの略称で、社会生活を送る上で必要な対人関係や自己管理能力などを養い、身に付ける訓練のことです。日本語では、社会生活技能訓練や生活技能訓練などと呼ばれる認知行動療法の1つです。
SSTは1940年代に精神障がいを抱えている方の支援を目的として始まりました。現在では対人関係や感情コントロールなどが困難な子どもに有効とされ、学校・児童発達支援・放課後等デイサービスなどさまざまな場面で導入されています。
SSTの目的
SSTの目的は対人関係や社会生活を営むために必要なソーシャルスキルを学ぶことで、学校だけではなく社会生活を送りやすくすることです。
学校や習い事などの集団生活においてさまざまな人と関わりを持つ上では「した方が良いこと」「しない方が良いこと」といった目に見えないルールが存在します。多くの人はこれらを自然に感じ取り、コミュニケーションを取っていますが、何らかの理由によりそのルールを理解することが難しい子どももいます。
そのため、ルールを理解できない子どもは場に応じた行動や発言ができずに困難を抱えてしまいがちです。SSTではそのような困難を抱える子どもに対して、学校や社会生活を円滑に過ごすためのトレーニングを行います。
SSTの対象は?
SSTは社会の中で人と関わりながら生きていくことに悩みを抱えている方全般を対象としています。学校教育においては「自分の行動のコントロールが苦手」「情緒に不安定さがある」など、特定の子どもだけではなく全ての子どもたちを対象としています。
誰もがスキルを高めることによって生きやすい社会を目指すために、子どもたちのソーシャルスキル向上の手段として注目されています。
学校教育でSSTを実施するメリット

学校教育におけるSSTの実施は、コミュニケーションの円滑化から子どものQOLの向上につながったり、子ども同士の相互理解が深まったりといったことが期待できます。ここからは、SSTを実践することで得られるメリットを解説します。
コミュニケーションに問題を抱える子どものQOLの向上につながる
人間関係を円滑に運ぶことや、「嫌だ」と感じる場面できちんと断る力を身に付けることで、自分なりの対処法を学びながら問題に向き合う力が養われます。また、自分が感じるストレスへの対処もできるようになると自信が付き、QOLの向上につながるでしょう。
子ども同士の相互理解が深まる
学校全体でSSTを行うことで、スキルを身に付けようとしているクラスメイトの進歩を周囲の生徒が感じ取れるようになります。
たとえば、これまで思い通りにいかないときに暴力をふるってしまう生徒がいるとします。その生徒が学習したスキルを生かして自分をコントロールしている姿から、周囲はその子の努力に気付くことができます。
このように、子ども同士の相互理解が深まることがメリットの1つといえるでしょう。
学校生活におけるストレスが軽減される
これまでは、対人関係の悩みがあっても正しい対処法が分からずにストレスを抱えてしまっていた子どもも少なくありません。しかしソーシャルスキルを学ぶことで、相手の気持ちをくめるようになったり適切な声がけができるようになったりと、コミュニケーションを円滑に進められます。
また、人間関係での対応に自信が持てるようになり、ストレスが軽減されるなどの効果も期待できるでしょう。
SSTの具体的な実践方法

学校教育においてSSTは、ゲームやディスカッション・ディベートなど多くの活動を通して実践できます。ここからはそれぞれの具体的な実践方法を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
①ゲーム
ゲームには学校生活に共通するさまざまなルールがあるため、楽しみながら社会性を身に付ける有効な手段として取り入れられています。
ゲームには以下のようなソーシャルスキル要素が含まれています。
- ルールを守る
- 仲間と相談し協力して解決する
- 勝ち負けの結果を受け入れる
教員はゲームの過程や目標を意識して、ゲームを進めていくことが重要です。
②ディスカッション・ディベート
ディスカッションやディベートは、言葉のキャッチボールをする訓練として有効です。相手の意見をしっかり聞いたり、自分の意見を正しく述べたりすることは、対人関係を円滑に運ぶために役立ちます。
また、他人の意見を聞いた上で自分の意見と比べることや協力する姿勢も身に付きます。生徒が興味を持つテーマを選択し、参加人数や時間を考慮して班編成すると良いでしょう。
③ロールプレイ
学校生活における悩みを想定してロールプレイすることもおすすめです。どのような振る舞いが良いか実際の演技を通して練習できるため、SSTの効果が期待できるでしょう。数人の対象生徒と教育者、相手役の生徒を抜粋し、対象者にとって課題となりそうな言動や場面をアレンジしてロールプレイを実践します。
演技が終わった後に良かった点を本人やクラスメイトから聞き、褒めることで長所を伸ばせます。クラス全体で行うことで、見学した生徒もロールプレイを参考にして今後の学校生活に役立てられるでしょう。
④共同行動
目標や目的を達成するためにグループで協力して行動するのもトレーニングの1つです。
工作や調理などの活動を行う課程で、クラスメイトと役割分担をしたり助け合ったりすることなど、実体験を通してトレーニングできるため必要なスキルを習得しやすいでしょう。
難易度が高すぎるものや複雑なものは、生徒のモチベーション低下につながるため、おおよその生徒が達成しやすいテーマを決めることが大切です。
⑤ソーシャルストーリー・ワークシート・絵カード
絵と短い文章でまとめられたソーシャルストーリーやワークシートなどを用いることも実践方法の1つとして挙げられます。ストーリーに対して、物語の中のルールやどのような感情が働いているか理解しながら「こんなときはどう対応したら良いか」に気付くことが目的です。
直してほしい問題行動や身に付けてほしいスキルに注目し、対象者に合わせてオリジナルのソーシャルストーリーをつくるのも1つの手です。
学校教育におけるSSTの手順

SSTの基本的な流れは以下の通りです。
- インストラクション
目標スキルやそれを習得する重要性を説明 - モデルの掲示
具体例を演じて見せる - 行動リハーサル
実施の場面を想定し、繰り返し練習 - 振り返り
習得したスキルや気持ちの変化を共有する
しかし、この流れを全て実践すると時間が不足してしまいます。時間を有効活用するためにも「不要と思われる部分を割愛」しながら、隙間時間を利用して必要な部分を繰り返し指導することが重要です。
学校生活へのSSTの取り入れ方の例

学校生活へのSSTの取り入れ方について、前述した手順をもとに解説します。あらゆる視点から必要な部分を熟考し、指導にお役立てください。
道徳の授業で実施する
まずは教材文を読み、謝罪の場面を捉えることから始めます。謝罪が必要な場面では生徒にセリフを使って演技させたり言われると嫌だと感じるセリフを言ってみたりと、より理解を深められるように工夫します。
次に、自分がトラブルをどのように収めていくか考えるよう促しましょう。謝罪の言葉・行動の理由・相手にとってラッキーと思えるような提案を考えます。双方が納得いく解決法を提案することは意外と難しいため、例を示した中から選ばせるのも1つの手です。
続いて、生徒に実際の謝罪の場面を演じてもらい最後に振り返りを行います。演じてみて感じたことや客観的に思ったことなどを自由に書かせ、生徒に共有する際に謝罪時に理由を加えることやラッキーな提案をすると仲直りしやすいことを感覚的に伝えることが重要といえるでしょう。
朝の会・帰りの会で実施する
まずは、教員が伝えたいことや生徒が生活の問題を出し合うことで、クラスがより楽しいものになることを伝えましょう。
最初は教員がモデルとなり進め方を演じてみせます。生徒がスムーズに進行できるように、よくありそうな場面を想定して話し合いを実践させましょう。実践中に司会者や発言者が困ったときはクラスメイトがアドバイスすることを促します。これをルールに設定することで発言が苦手な生徒も安心して話し合いに参加できるようになり、1つの成功体験として自信につながるでしょう。
最後に、話し合いの中で良かった点や改善できたことがあれば、すぐに褒めることも大切です。
SSTの実施における重要なポイント

学校教育を通してSSTを実施するにあたり、重要なポイントが2つあります。それぞれ詳しく解説していきます。
できたことを認めて褒める
社会性を習得している大人から見ると、子どもの行動によってはあまり好ましくないと感じる場面もあるかもしれません。そういった場合、注意したり叱ったりしてしまいがちですが、社会性を鍛えるために叱るのは逆効果の場合もあることを覚えておきましょう。
生徒が楽しみながら自然に社会性を身に付けるために叱ることは避け、できたことを認めて褒めることが大切です。
スモール・ステップで少しずつ身に付ける
ソーシャルスキルは訓練を重ねることで向上すると考えられますが、生徒によってはハードルが高すぎたり課題が難しかったりすると、やる気を失ってしまうかもしれません。
すでに身に付いているスキルをさらに伸ばすためにも、できること・できないことを分析しながらスモール・ステップで進めていくことが大切です。
SSTにおすすめの子ども向け教材

生徒が楽しみながらSSTを修得するのに役立つ、子ども向けの教材がいくつか出ています。その中から3つ紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
①「きいてはなして はなしてきいて トーキングゲーム」
1つ目の教材は、人の話を黙って聞くだけというルールの「きいてはなして はなしてきいて トーキングゲーム」です。
とてもシンプルなルールですが、人の話をしっかり聞くことも、自分の気持ちを相手に伝えることも、生きていく上で大切なことです。話すことに自信が持てない生徒や、黙って聞くことができないなどの課題を克服する訓練としておすすめです。
②「あたまと心で考えようSST(ソーシャルスキルトレーニング)ワークシート」
2つ目の教材は、生徒の年齢や目的によってワークシートを選べる「あたまと心で考えようSST(ソーシャルスキルトレーニング)ワークシート」です。
字が大きく絵も盛り込まれているので見やすく、ワーク内容は日常生活や学校で実際にありそうなシチュエーションが用意されています。また、解答ページには進め方や声がけのアドバイスも載っているためSSTを実践しやすいでしょう。
③「はぁって言うゲーム」
3つ目の教材は、カードに書かれたお題を「はぁ」という声と表情だけで演じて、それを当ててもらうコミュニケーションゲームです。
同じ言葉でもお題によって伝えたい内容が異なるため、自分の気持ちを相手に伝えるために工夫したり、相手の気持ちを理解しようとしたりする姿勢を育成できます。
まとめ

子どもの対人関係を円滑にするためのSST。さまざまな手段を用いながら成功体験を繰り返して生徒の自信につなげていくことが大切です。
SSTのメリットや手順をよく理解した上で本記事で紹介した実践方法を教育の中に取り入れてみてください。生徒のソーシャルスキル向上を目指し、これからの教育に役立てていきましょう。

