世界中で広がりを見せる教育方法「SEL」とは?特徴や実践例を解説

2025/11/27(木)

社会情緒的教育と呼ばれる「SEL」。アメリカを中心に広がりを見せ、日本でも徐々に注目度が上がっています。
しかし、SELとはどのような教育なのか、SELの実施の際に先生が意識することは何なのか、疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

本記事では、SELの概要や育成されるスキル、意識したい重要ポイントなどについて解説します。海外および日本の実践例も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

社会情緒的教育「SEL(Social Emotional Learning)」とは?


SEL(Social Emotional Learning)は、社会性や対人関係能力などを育成するための学習や体験のプロセスを意味する言葉です。SELのプロセスは、脳科学や発達心理学などの科学的根拠にもとづいています。

SELでは以下のような能力が育てられます。

  • 自己理解力
  • 社会性
  • 自尊感情
  • 自制心

なお、SELはプログラムの総称です。特定のカリキュラムやプログラムを指す言葉でないことを覚えておきましょう。

アメリカではトレンドの教育方法

アメリカでSELの活用が始まったのは1960年代です。SELを行うことによって、生徒の問題行動の減少や学力の向上などの成果が確認されています。現在では、スタンフォード大学やイェール大学といった名門校、オンラインのハイスクールなどでも導入されています。

生きる力を育むために必要であることから、アメリカを中心にカナダやイギリスなどでもSELは広がりを見せています。

なぜSELが注目されているのか?

教育心理学や脳科学の領域における研究が進む中で、SELで育成が見込める「自己管理能力」「関係性構築力」といった非認知能力が認知能力の向上にも良い影響を及ぼすことが明らかにされました。

そのため、不安定かつ複雑な現代を生き抜くのはもちろん、学力や知能を表す認知能力の向上にもつながることからSELの注目度が高まっています。

SELで育つ5つのスキル


SELでは、大きく分けて5つのスキルを育成できます。ここでは、それぞれのスキルの特徴を紹介します。

①自己認識

自己認識とは、以下のような能力のことを意味します。

  • 自分の能力を現実的に認識する力
  • 自分の感情や考えを理解する力
  • 自分の態度や行動が周りに与える影響を理解できる力
  • 自分の強みと弱みを認識する力
  • 自分自身を信頼すること

②セルフマネジメント

セルフマネジメントには、以下のような能力が含まれます。

  • いかなる状況でも、自分の感情・思考・行動を制御できる力
  • 衝動的な感情をコントロールする力
  • ストレスをうまく対処する力
  • モチベーションをコントロールする力
  • 自分で目標を定める力

③社会理解・他者理解

社会理解・他者理解の例として、以下のような能力が挙げられます。

  • 多様な価値観・バックグラウンド・文化を持つ他者を理解し、共感する力
  • 学校・家族・地域コミュニティを承認すること
  • 他者の立場に立つ力
  • 物事を倫理的・社会的に理解する力
  • 他者を尊敬する力

④対人関係スキル

対人関係スキルには、具体的に以下のような能力が含まれます。

  • 個人または集団で適切な関係を築き、維持する力
  • コミュニケーション能力
  • 傾聴力
  • 不適切な社会的圧力に抵抗する力
  • 課題や紛争解決に向けた交渉力
  • 必要に応じて他者をサポートする力
  • チームワーク

⑤責任ある意思決定

責任ある意思決定とは、以下のような能力を指します。

  • より良い生活に向けて自分の責任で意思決定する力
  • 倫理基準や安全性への配慮
  • 社会的基準に沿って建設的に選択できる
  • 自分の行動によってもたらされた事実を客観的に評価する力
  • 問題を特定したり、課題を設定したりする力
  • 状況分析力
  • 問題解決力
  • 評価する力
  • 他者からの反響を受容する力
  • 倫理的な責任

学校でSELを実施する際の重要ポイント


ここでは、学校でSELを実施する際の重要なポイントを5つ紹介します。

先生のマインドセットの変容

SELでは、先生のマインドセットが変容し、その後生徒が変改していくというパターンが一般的です。つまり、生徒の変容には先生の存在が大きいということです。

生徒を第一に考える学校現場では、先生は自分で頑張らざるを得ない状況に陥りがちです。先生の心理的安全性を担保することが、結果的に生徒のためにもなります。

全校での実施に先駆けた学年・学級単位での試行

1つや少数の学級、または1学年といった小規模で試行した後に成果や課題を先生同士で共有すると、全校での実施に向けた準備を整えられます。学級・学年単位での試行によってある程度基盤ができれいれば、全校での実施時にはより効果を発揮しやすくなるでしょう。

適切なSELプログラムの選定・構成

SELプログラムを選定する際には、以下3つのポイントに気を付けましょう。

  • プログラムの全体像が明確であること
  • 評価の観点や方法が明確であること
  • 妥当だと判断できる根拠があること

育成を目指す能力および学習内容がSELの5つのスキルで構成されていること、また、発達段階や生徒のニーズに合わせてつくられていることが大事です。

さらに、成果を測るためには適切に評価を行う必要があります。目標と評価観点・方法が明確なプログラムを選びましょう。

なお、プログラムの妥当性を判断する根拠には、ある地域での成功例が参考にされることがほとんどです。日本では、パッケージ化されたSELプログラムがまだ少ない現状にあります。よって、独自にプログラムを構成する場合が多いことを覚えておきましょう。

家庭との連携

学校でSELを実施する際には、各家庭との連携が欠かせません。なぜなら、学校におけるSELの学びを家庭で強化することが、効率的な能力育成につながるためです。

家庭との連携を図るには、学級通信などでお知らせ・協力依頼をしてみましょう。また、家庭でも生かせる課題を設定することで、学校内外で課題に取り組めるようになります。保護者参観を利用して連携を図るのも効果的です。

教育課程における位置付けと評価

学校でSELプログラムを実施するためには、教育課程のどこにどの程度位置付けるのかを考えておく必要があります。生徒の行動変容を起こさせるためには、他の教育活動と関連付けた学習体験の流れ・環境を構成することが求められるためです。現状、SELプログラムは特別活動として位置付けられることが大半で、一部では総合的な学習の時間に位置付けられることもあります。授業回数は最低年間7〜8回は必要だといわれています。

また、SELプログラムを実施する中で指導の改善を図るためには、評価を行う観点や段階を具体的に設定しておくことが重要です。

海外におけるSELの実践例


ここからは海外におけるSELの実践例について、アメリカのカリフォルニア州にあるスクールを3つ紹介します。

独自のプログラムを開発「Alpha Public School」

カリフォルニア州・サンノゼにあるAlpha Public Schoolは、独自のSELプログラム「PLTプログラム」を開発しました。

PLT(Personalized Leadership Trainin)プログラムはリーダーシップとSELをかけ合わせてつくられたプログラムです。

PLTプログラムは「PLTラボ」と「PLTフィールド」の2つに分けられます。PLTラボではディスカッションを通してSELを学び、PLTフィールドでは屋外研修とリーダーシップ構造を組み合わせてSELの性質を実践します。

世界最先端のSEL校「Synapse School」

カリフォルニア州・メンローパークにあるSynapse Schoolは、世界最先端のSEL校と呼ばれています。

Synapse Schoolでは「チェンジメーカーのコミュニティを育成していくこと」がミッションとして掲げられており、変化や変革が教育の核となっています。

Synapse Schoolのプログラムは生徒に教えることではなく、生徒の内面を引き出すことに重きが置かれているため、先生はサポーターに徹します。また立場に関係なく、生徒・先生・保護者が人として関わり合っているのが、Synapse Schoolの特徴です。

上記のような環境が整っているからこそ、生徒達のEQ(こころの知能指数)が育成されていると考えられます。

SELをカリキュラムの中核にそえる「Nueva School 」

カリフォルニア州・サンフランシスコにあるNueva Schoolでは、SELを通じたEQの育成に力を入れています。

Nueva SchoolはIQ130以上の天才児(gifted children)が通う学校です。天才児は発達障害を持っていることが多く、IQが高いあまりに他者とうまく付き合えない特性があります。

Nueva Schoolでは「自分自身をいたわる (care for Self)」「他者に配慮する (care for Others)」「地域・コミュニティを気遣う (care for the Community)」の3つの価値観を共有し、全校生徒がSELカリキュラムに取り組みます。授業や課外学習などあらゆる教育活動にSELカリキュラムが組み込まれているのが特徴です。

日本でも広がりをみせるSEL教育


2009年に日本SEL研究会が発足するなど、日本でも徐々にSEL教育が広まってきています。ここからは、日本での実践事例を3つ紹介します。

日本の授業環境に合わせた「SEL-8S(セル・ハチエス)プログラム」

SEL-8研究会が開発した「SEL-8Sプログラム」は小中学生を対象にした学習プログラムであり、日本の授業環境に合わせて設計されています。

紙芝居・ゲーム・ロールプレイなどを用いながら「楽しく具体的に」学ぶのが特徴です。授業で活用できる資料や効果を測るためのアンケート用紙、保護者向けの資料なども提供しています。

福岡県福岡市の学校では、すでに学校全体でSEL-8Sプログラムの取り組みが始まっています。

2014年からSELを導入「かえつ有明中・高等学校」

かえつ有明中・高等学校のSELは先生間の内省から2014年にスタートしました。理由は、生徒より先に先生の変容が必要だと考えられたためです。その後、SELの取り組みは生徒にまで広まりました。

かえつ有明中・高等学校では、CASEL(Collaborative for Academic, Social and Emotional Learning)を参考に、「独立したレッスン」「設計された教育実践」「教科との統合」「組織戦略」の4つのアプローチでSELが実施されています。

教員向けワークショップを実施「自由ヶ丘学園高等学校」

ワークショップを行ったのは、教育研究家であり自由ヶ丘学園高等学校の教育アドバイザーを務めるパトリック・ニュウエル氏です。

小グループでの話し合いを行った後、SELについて説明されました。SELを導入した学校の成果や自由ヶ丘学園高等学校における社会情緒的能力の計測結果の発表もあり、参加した職員全体でSELの重要性が共有されています。

自由ヶ丘学園高等学校ではSEL導入のための推進委員会を毎月開催し、教員の精神的安定性の維持や尊重し合う場の構築に努めています。

まとめ


SEL(Social Emotional Learning)とは「自己認識」「セルフマネジメント」「社会理解・他者理解」「対人関係スキル」「責任ある意思決定」を育成する学習や体験におけるプロセスの総称です。

学校でSEL教育を実施する際には、先生のマインドセットの変容を促したり、適切なプログラムを提供したりなど、意識したいポイントがいくつかあります。

本記事で紹介した海外および日本の実践例を参考に、SELの実施に備えましょう。

 

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