デジタルシチズンシップ教育とは?定義や必要性と事例・教材を紹介

2025/12/01(月)

ICT・教育DX

情報化社会を生きる子どもたちにとって、デジタルシチズンシップは欠かせない能力です。しかし、現状はデジタルシチズンシップに関する情報が少なく、どのような教育が必要なのか悩む指導者も多いのではないでしょうか。

本記事では、デジタルシチズンシップについて解説するとともに、日本における現状・事例・教材などを紹介します。生徒の将来に役立てられるように知識を深め、指導にお役立てください。

近年注目されている「デジタルシチズンシップ教育」とは|分かりやすく解説


デジタルシチズンシップ教育とは、デジタル機器やインターネットを活用しながら、自身の力で学習を進めたり、社会の課題を解決したりできる能力を指導することです。たとえば以下のようなデジタル関連の活動が挙げられます。

  • 学習
  • 研究
  • ゲーム
  • コンテンツの作成・公開

生徒は1人1台の端末を活用しながら学びの成果をプレゼンテーションしたり、面談の際に生徒自ら学習状況を示したりして活用できます。また、デジタル機器の活用に伴い、使用上のルールの指導や端末のIDやパスワード管理能力の習得も目指しています。

デジタルシチズンシップ(デジタルシティズンシップ)とは

1990年頃からの情報機器やインターネットの普及に伴い、1998年に米国で情報教育基準が作成され、2007年頃にデジタルシチズンシップという考え方が登場しました。

現代の生徒たちにとってデジタルツールは必須アイテムであり、日常生活だけでなく教育のあらゆる場面において欠かせないものです。そのため、デジタルシチズンシップ教育を通じて、より安全で論理的なデジタル社会を築くことが求められています。

欧米でのデジタルシチズンシップ教育の考え方

デジタルシチズンシップは欧米を中心に取り組みが進んでおり、日本でも注目を集めています。欧米では2010年頃からデジタルシチズンシップの重要性が認知され、2016年に専門家委員会を設置すると同時に教育プロジェクトを立ち上げました。

現在の生徒は保護者世代よりもデジタル技術に関して詳しい一面もありますが、社会の一員として全てを理解しているとは限りません。また使い方を誤るといじめ・ネット荒らし・人間関係に問題が生じて中途退学など、さまざまな問題につながる可能性も考えられます。そのため生徒はデジタルシチズンシップ教育を学び、実践していく必要があります。

積極的にデジタル技術の活用方法を学びつつ、インターネットのリスクから身を守る方法も理解することで、生徒たちはデジタルを取り扱う能力をより向上させられるでしょう。

日本のデジタルシチズンシップ教育の現状


ここからは、米国「学校リーダーのためのデジタル・シティズンシップ・ハンドブック」に示されたデジタルシチズンシップ教育9要素を解説しつつ、日本におけるデジタルシチズンシップ教育の現状について紹介します。

「デジタルシチズンシップ教育」と従来の「情報モラル教育」の違い

「デジタルシチズンシップ教育」とはデジタル社会をポジティブに捉え、活用しながらより良く生きていくために必要な資質・能力を育てることです。一方、ネット上で犯罪被害に遭わないように危機回避したり、ネット依存にならないようにしたりと、生徒を危険から守るためにするべきことを指導する「情報モラル教育」があります。

デジタルシチズンシップ教育では以下の9要素を明確に示しています。

  • デジタル・アクセス
  • デジタル・コマース
  • デジタル・コミュニケーション&コラボレーション
  • デジタル・エチケット
  • デジタル・フルーエンシー
  • デジタル健康福祉
  • デジタル法
  • デジタル権利と責任
  • デジタル・セキュリティとプライバシー

引用:総務省|市民のデジタルコンピタンスとデジタルシティズンシップの動向|DCの9要素

デジタルシチズンシップ教育が必要とされる理由

近年のICT普及により、デジタルシチズンシップ教育は必要とされるようになりました。しかし、使い方次第ではデジタル技術の恩恵を受けられる人と犠牲になる人との格差が生じてしまう可能性が考えられます。効果的なデジタルシチズンシップ能力は自然に身に付くものではないため、学んで実践する必要があります。

全ての人が平等にデジタルツールを活用するために、まずは積極的にデジタル技術を活用する方法を指導し、生徒がこれらの能力を身に付けられるように支援することが大切といえるでしょう。

GIGAスクール構想によるデジタル利用の日常化

GIGAスクール構想とは、生徒が1人1台の学習用端末を活用しながら個別最適化された学びを習得する取り組みです。効果的に活用してより良い学習を実現するために、生徒自らが進んでデジタル社会と関わっていくことが大切です。その中で、生徒の自立と問題解決を促しながら学びや生活を支える考え方として、デジタルシチズンシップが注目されています。

従来の情報モラル教育の課題

これまでの「情報モラル教育」は、生徒を危険から守るための制御やリスク回避が目的でした。たとえば、文部科学省が令和2年に作成したリーフレット「インターネットにつなぐとき守ってほしい、大切なこと」には以下の記載があります。

  • パスワードは友達にもヒミツ
  • メールのリンクやファイルはすぐに開かない
  • パソコンなどは常に最新の状態にして弱点をなくす
  • 困ったら大人に相談しよう

引用:文部科学省|インターネットにつなぐとき守ってほしい、大切なこと

実際に上記の知識は大切です。しかしデジタルツールの普及により、リスクを管理するだけでは生徒のデジタルスキルが伸びない、自ら考えてデジタルツールを活用しにくいなどの課題がありました。時代の変化に合わせて、生徒が正しく理解して積極的にデジタルツールを活用するための指導がデジタルシチズンシップ教育です。

各省庁のデジタルシチズンシップの動向

文部科学省ではGIGAスクール端末の活用を推進するために、デジタルシチズンシップ教育の普及を目指しています。制限するだけでなく、デジタルツールをポジティブに活用する方法の教育が重要と考えています。

また経済産業省の未来の教室プロジェクトが開発した「STEAMライブラリー」においても、まずは多くの人が周知できるように広報に力を入れる必要があると考えています。

デジタルシチズンシップ教育の取り組み事例


学校教育ではChatGPTや動画などのデジタルコンテンツを用いて、デジタルシチズンシップ教育に取り組んでいます。ここからは、それぞれを活用した授業事例を紹介するので、ぜひ参考にしてください。

ChatGPTを使ったデジタルシチズンシップ教育の授業事例

三重県にある中高一貫6年制の学校法人津田学園「津田学園中学校・高等学校」では、ChatGPTを活用したデジタルシチズンシップ教育が実施されました。高校2年生のコミュニケーション英語Ⅱの授業の際に、世界的に注目を集めているAI人工知能を搭載したChatGPTを用いて「ChatGPTと英語でチャットしてみよう」というテーマをもとに授業が進められました。

ChatGPTのルールにより18歳未満は使用できないため、鈴木太郎教諭が所有するアカウントを通じて教諭が入力する形での使用でしたが、生徒は興味津々です。

生徒たちはChatGPTとのコミュニケーションを楽しみつつ、質問の表現によって返事の内容・文章の長短・難易度が変わることに気付きました。また、言い回しを考えたり分かりやすい表現で伝えたりする英語力が必要だということも分かりました。AI人工知能が活用できる今後に向けて、ますますデジタルシチズンシップの大切さを学ぶきっかけとなったようです。

動画を使ったデジタルシチズンシップ教育の授業事例

埼玉県の西武学園文理高等学校では、生徒が主体的にICTやテクノロジーをうまく活用できるようになることを目指して定期的にデジタルシチズンシップ授業を実施しています。

ある日の授業では「十代の声:つながり続ける重圧」という動画をもとに、メディアの特性や持続して使用することで生徒に与える影響を題材にした動画を視聴しました。視聴後、生徒たちはワークシートを用いてクラスメイトと話し合いながら、メディアとどのように関わっていくか考え意見を出しました。

中にはスマートフォンを手放せないと自覚している生徒も多く「深く考えるきっかけになった」「今後は生活を整えるためにも利用時間を管理するアプリを使いたい」「家族に預かってもらい、節度を守って使用していきたい」など、使い方を見直す良いきっかけになったようです。

指導に活用できるデジタルシチズンシップ教育の教材を紹介


デジタルシチズンシップ教育をどのように指導に取り入れたら良いか悩んでいる教育者も多いのではないでしょうか。ここからは、デジタルシチズンシップ教育に活用できる教材を2つ紹介するので、ぜひ参考にしてください。

経済産業省(STEAM Library)「GIGAスクール時代のテクノロジーとメディア~デジタル・シティズンシップから考える創造活動と学びの社会化」

前述した通り、GIGAスクール構想とは全国の生徒1人に1台の端末と高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組みです。GIGAスクールは、デジタルシチズンシップの理念をもとに発達段階に合わせて設計されているため、年齢に応じてレクチャーを選択することが可能です。

たとえば中学生や高校生を対象にした課題では、SNSの使い方から社会のデジタルジレンマに対しての向き合い方なども考えていきます。また指導者や保護者向けの動画もあるため、生徒だけでなく幅広い人に役立つ教材といえます。

総務省「家庭で学ぶデジタル・シティズンシップ」

「家庭で学ぶデジタル・シティズンシップ」は総務省が提供する教材で、4本の動画と実践ガイドブックで構成されています。指導者だけでなくタブレットやスマートフォンを使う子どもを持つ保護者世代を対象とし、デジタルシチズンシップの知識が少ない保護者でも分かりやすいように導入編から始まります。「対人関係とコミュニケーション」など3つのテーマごとに実践編があり、必要な知識や問いかけの方法を学べる内容です。

Common Sense Education「コモン・センスエデュケーション」

米国では教材「コモン・センスエデュケーション」にて、デジタルシチズンシップを学んでいます。学年別に6つの領域の教材が用意され、教材の半数以上に動画が付いているため分かりやすい教材です。また教材の一部は日本語に翻訳されているため、日本でも活用されています。

コモン・センスエデュケーションの動画ではICT活用について最低限の方向性だけを示し、答えや結論は示さずにあらゆる方向から考えた上で「どう思うか」と、問いを投げかけるのが特徴です。必ずこうするべきといった答えや考え方はなく、生徒自身が選択したものが最適であり、答えは人それぞれというスタンスです。

まとめ


デジタルツールを活用しつつ、より学習の成果を出すために欠かせないデジタルシチズンシップ教育。生徒がデジタル社会をポジティブに捉え、活用しながらより良く生きていくために必要な資質・能力を育てることが大切です。

デジタルシチズンシップについてよく理解した上で、本記事で紹介した取り組み事例や教材を、教育の中に取り入れてみてください。生徒のデジタルスキル向上を目指し、これからの教育に役立てていきましょう。

 

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