学びの多様化学校とは?特徴・課題・実践事例を分かりやすく解説

2025/12/04(木)

学校運営・教員

学びの多様化学校という制度は、不登校生徒への新しい学びの場として注目されています。この記事では学びの多様化学校の仕組みや特徴、実践事例を解説します。記事を読めば制度の全体像を理解でき、自校での実践に生かせるヒントが得られるでしょう。

学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)の基本情報

まずは学びの多様化学校の制度について基礎知識を押さえましょう。以下で、5つのポイントを解説します。

学びの多様化学校とは

学びの多様化学校とは、不登校児童生徒の実情に応じ、特別な教育課程を編成できる学校です。文部科学大臣が学校教育法に基づき指定します。

学びの多様化学校は独自の教科を新設したり、授業時間数を柔軟に調整したりできる点が特徴です。一般の小学校・中学校・高等学校と同様に卒業資格が得られます。以前は不登校特例校と呼ばれていましたが、2023年8月31日に学びの多様化学校へ改称されました。

教育課程を独自に編成できるといっても、学習指導要領を無視してよいわけではありません。憲法や教育基本法の理念を踏まえ、学校教育法が定める目標の達成に努める必要があります。対象となる児童生徒の範囲や教育課程の編成には、さまざまな留意事項が定められています。(※1)

学びの多様化学校が求められる背景

学びの多様化校の設置が急務とされる背景には、不登校児童生徒の増加という深刻な現状があります。文部科学省の調査によると、不登校者数は過去最多を更新中です。従来の画一的な学校教育だけでは、多様な背景を持つ子どもたちに対応できません。

不登校児童生徒の増加を受け、国は「COCOLOプラン」を策定しました。不登校を問題行動とせず、個々のニーズに応じた多様な教育機会の確保を掲げています。その中心となる施策として、全国での設置目標が掲げられているのが学びの多様化学校です。

全ての子どもに居場所と学びを保障し、将来の社会的自立へつなげるための新たな選択肢として、その役割はますます重要になっています。

学びの多様化学校の設置状況

設置形態は4つに分類されます。本校型は廃校などの既存施設を活用するタイプ、分校型は本校と分離して設置するタイプです。分教室型は一般の学校内で一部の学級のみを指定するタイプ、コース指定型は高校の一部コースを指定するタイプとなっています。

具体的な数は下表の通りです。

本校型23校
分校型5校
分教室型22校
コース指定型9校

このように柔軟な設置形態が認められていることが、学びの多様化学校の増加を支えています。地域の実情に応じて選択できる点が特徴です。(※2)

学びの多様化学校にかかる費用

学びの多様化学校では公立校の場合、基本的に学費は無料です。教材費やスクール用品など、実費にかかる費用のみの負担で済むことが多いでしょう。

一方、私立校や特別支援型の一部スクールでは授業料が発生します。中学校の平均授業料は約47万6,000円、高校は約37万4,600円です。加えて、施設費などの納付金が平均で約29万4,000円必要です。

自治体により学費補助や通学交通費の支援をしている場合もあるため、事前に確認しましょう。(※3)

学びの多様化学校とフリースクールの違い

学びの多様化学校に通う場合は転籍・転入の形をとり、通う学校が在籍校となります。このため、小学校・中学校・高等学校と同様に卒業資格を取得できます。

一方、フリースクールは民間の教育サービスであり、元の学校に籍を残したまま通うことが一般的です。ただし、フリースクールに通うことで出席扱いになる場合もあります。

学びの多様化学校の主な特徴


学びの多様化学校は、生徒の状況に応じた柔軟な学習環境と丁寧な支援体制を備えている点が大きな特徴です。

不登校経験のある生徒でも通いやすい環境が整えられている

生徒の心理的負担を軽減する工夫が随所に施され、不安を抱える子どもたちが安心して過ごせます。少人数制のクラス編成を採用し、一人ひとりに目が届く体制を構築しています。教室以外にも静かに学習できるスペースを用意するなど、落ち着いた雰囲気の中で学べる環境を用意しているのが特徴です。

さらに教職員は不登校への理解が深く、学習面よりも信頼関係の構築を優先します。こうした取り組みにより、生徒は社会性を育みながら学校への不安を少しずつ解消できるでしょう。

一人ひとりのペースに合わせて学べる

学びの多様化学校は学習の進み具合や理解度に応じて、授業内容や登校時間を柔軟に調整できる点が特徴です。過去に授業についていけなかった生徒でも無理なく学び直せます。

基礎から丁寧に指導するカリキュラムが整備されており、つまずいた箇所を何度でも復習できる仕組みがあります。教員や支援スタッフが個別にサポートする体制も充実しているため、生徒は自分のペースで学習に取り組めるでしょう。こうした柔軟な対応が、学びへの意欲を引き出します。

ICTを活用して個別最適な学びが進められる

タブレットやパソコンなどのデジタル機器を積極的に活用し、生徒一人ひとりに最適な学習環境を提供している点が特徴です。通学が難しい日でもオンラインで授業に参加できます。

デジタル教材やeラーニングシステムを導入することで、理解できるまで繰り返し学習できる仕組みを築いています。自分のペースで進められるため、授業についていけなかった経験がある生徒も安心です。さらに映像教材を活用すれば、視覚的に理解を深められるでしょう。

心のケアにも重点が置かれている

不登校経験のある生徒が学校生活を送れるよう、心理面でのサポート体制が充実しているため安心です。精神的な安定が学びの土台となることを重視しています。

学びの多様化学校の多くではスクールカウンセラーが常駐し、気軽に相談できる環境が整っています。悩みや不安を一人で抱え込まず、専門家に話を聞いてもらえることは、大きな心の支えとなるでしょう。

カウンセリングを通じて心の安定を取り戻し、自己肯定感を高めながら前向きに学校生活を送れます。

将来に向けた進路支援が行われている

不登校経験を持つ生徒が多いという背景から、卒業後の進路サポートに力を入れています。生徒一人ひとりの状況や希望に応じ、きめ細かな支援を受けられます。

教員が親身になって相談に乗るため、生徒自身が納得のいく進路を選べるでしょう。また体験学習やワークショップを通じて、自分の強みや適性を発見できる機会も用意されています。

進路支援への取り組みにより、将来の目標を明確にしながら自信を持った進路選択が可能です。

学びの多様化学校の注意点と課題


学びの多様化学校にはいくつかの注意点や課題があります。下記の注意すべきポイントを理解しておきましょう。

学校数が少ない

文部科学省は2027年度までに各都道府県へ1校の設置を目指しています。現状ではまだ目標に届いておらず、選択できる生徒が限られています。

都市部では比較的多くの学校が開校している一方、地方では依然として数が不足しているのが実情です。また選択肢が限られることから、学校の教育方針や雰囲気が生徒に合っているかを慎重に見極める必要があるでしょう。(※4)

地域によって通学に負担がかかる

自宅からの距離や利用できる交通機関によっては、通学時間が長すぎるケースがあります。

不登校を経験した生徒の場合、移動に多くの時間を要することは心身への負荷が大きくなります。早朝に出発して混雑した車内で過ごすことや、不慣れなルートを歩き続けることは、メンタル面でのリスクも懸念されるでしょう。

入学を検討する段階で学校への経路を体験しておくと安心です。

私立校では費用負担が発生する場合がある

私立校の年間授業料は学校によって幅があり、数十万円から百万円を超えるケースも見られます。これに加えて入学金、教材費、設備費といった諸経費も別途求められることが一般的です。さらに自宅から離れた学校へ通う場合、交通費も毎月数万円規模で必要になるでしょう。

電車やバスの定期代に加え、スクールバスを運行している学校でも利用料が発生する場合があります。奨学金制度や自治体の補助金などの支援策もありますが、条件や金額には限りがあるため、事前に確認しておきましょう。

学びの多様化学校の実践事例


全国にはさまざまな形態の学びの多様化学校があります。以下では代表的な3つの実践事例を紹介します。

生野学園高等学校(本校型)

学校全体を学びの多様化学校として運営する本校型の代表例です。生徒一人ひとりの状況に応じた柔軟な学びを実現しています。

具体的には、履修学年を固定しない学校指定科目を設けることで、生徒が自分の状況に合わせて科目を選択できる仕組みを構築しています。また全寮制を採用しており、寮生活での集団活動を通じて対人関係を学べる環境が整っているのが特徴です。

共同生活の中で他者と関わりながら、主体的に生きていこうとする意欲を育むことを重視しています。こうした取り組みにより、学習面だけでなく社会性の育成にも力を注いでいる学校です。

福生市立福生第一中学校・7組(分教室型)

既存の学校内に特別な学級を設ける分教室型の実践例です。探究的な学びを通じて生徒の主体性を育てることに注力しています。

具体的には、独自の教科として「プロジェクト学習」を新設し、複数の教科を横断的に扱う授業を展開しています。生徒が自分で興味を持ったテーマを選び、自ら調べて探究し、独自の結論を導き出すプロセスを大切にしているのが特徴です。

この取り組みを通じて、生徒が探究し続ける力や自発的に行動する力を身に付けることを目指しています。通常の学級とは異なるアプローチで、不登校経験者の学びを支援している事例といえるでしょう。

福岡県立小郡高等学校・普通科みらい創造コース(コース指定型)

既存の高校内に特定のコースを設けるコース指定型の実践例です。不登校経験がある生徒が安心して学べる環境づくりを重視しています。

学ぶ意欲はあっても従来の体制では通学が難しかった生徒に対し、きめ細かな支援と個々の状況に配慮した教育活動を提供しています。同年代の仲間と同じ空間で学びながら、互いの感性や考え方に触れ合う機会を大切にしているのが特徴です。

他者を尊重し、多様な人々と協働して課題を解決する力を育むことで、自立して社会で豊かに生きる力の習得を目指しています。公立高校における柔軟な受け入れ体制の好例といえるでしょう。

まとめ


学びの多様化学校は、不登校経験がある生徒一人ひとりに寄り添った教育を提供する新しい学びの場です。少人数制や個別最適な学習、心のケアなど、従来の学校とは異なる配慮が随所に施されています。

一方で、学校数がまだ少なく地域によっては通学の負担があること、私立校では費用がかかることなど、課題も存在します。選択する際には、こうした注意点も含めて慎重に検討することが大切です。

全国ではさまざまな形態の実践事例が生まれており、今後さらなる拡充が期待されています。多様な学びの選択肢が広がることで、より多くの生徒が自分らしく学べる環境が整っていくでしょう。

 

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