義務教育学校とは?中高一貫校との違いやメリット・デメリットを解説

2022/11/28(月)

近年、小学校・中学校で働く教員の多忙さが話題になっています。この状況を踏まえ、文部科学省は2016年に義務教育学校の制度化を実施しました。義務教育学校とは、小学校・中学校の区切りを無くした教育課程9年の新たな学校制度です。
この記事では、義務教育学校が制度化された背景や小中一貫校との違い、義務教育のメリットなどを紹介します。

小中一貫教育の一形態「義務教育学校」とは?

義務教育学校とは、小学校〜中学校の義務教育を一貫して行う新たな学校の仕組みのことです。2016年に制定され、義務教育学校が開校して以来増加し続けています。2020年における全国の開校数は126校です。特徴として、義務教育学校は従来の小中一貫とは異なり、9年間の修業年限と教育課程が設けられています。また、義務教育学校で教える教師は、小学校と中学校の免許状の併用が義務として決められているため、教員免許を持っていれば誰でもなれるわけではありません。

義務教育学校のカリキュラム

義務教育学校のカリキュラムは、以下のとおりです。

・前期課程:1~6年生
・後期課程:7~9年生

前期課程では、小学校の学問の内容に沿った教育を行い、後期課程では、中学校で学ぶ内容を主に行います。学年の呼び方も小中一貫とは異なり、中学1年生のことを7年生と呼びます。それぞれの義務教育学校によってカリキュラムの組み方に差が出るため、入学前に9年間のカリキュラムを確認しておきましょう。

義務教育学校が制度化された背景には小中一貫教育の推進がある

義務教育学校が2016年に制度化された背景には、小中一貫教育の推進があります。その他にも、下記の5つの背景があり義務教育学校が制度化されました。1つずつご紹介していきます。

改正された教育基本法、学校教育法へ の対応

1つ目の背景として、改正された教育基本法と学校教育法への対応が挙げられます。新たな教育基本法では、義務教育の目的が下記のように明記されました。

”義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。”
※引用元:https://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/mext_00003.html

このように教育基本法が明確化したことで、小学校や中学校で教育に携わる教師たちに、日々の教育活動に対する問いと、その問いに向き合うためのアプローチの方向性が明示されました。アプローチの方法として、小学校・中学校が協力し、9年間の系統性や連続性に配慮した教育を実施するために、義務教育学校が制度化されました。

教育内容の量・質の充実化への対応

2つ目の背景として、教育内容の量・質の充実化への対応を求められたことが挙げられます。2008年に制定された学習指導要領では、教科によって授業時間を1割程度増やし、教育内容の量・質の向上が求められました。しかし、小学校の教員は、日々多くの業務がある中で全ての教科を担当しており、新たな指導要領に対応するために、現行制度では負担が大きいです。そこで、小学校・中学校の教員が連携・協力できるシステムが必要となり、義務教育学校の制度化が進められました。

児童生徒の発達が早期化していることへの対応

3つ目の背景として、年々、小学校や中学校の子供達の身体的発達が早熟化していることが挙げられます。また、思春期の到来も早まっているため、小学校高学年から自己肯定感や感情に関する質問に対して、否定的な思考・回答になることが大きな問題となっています。そこで、子供達の発達に適切に対応するという観点から、多様な職員が子供達に関わることが求められています。多様な職員に子供達が関わることで、子供の社会的な成長やコミュニケーションスキルに繋がるため、小学校・中学校といった区切りに縛られない義務教育学校が制度化されました。

「中1ギャップ」への対応

4つ目の背景として、「中1ギャップ」への対応が求められるようになったことが挙げられます。中1ギャップとは、小学校・中学校の環境の変化で起こる不登校やいじめ、暴力行為をする子どもが増えてしまうことです。小学校高学年になる頃には、多くの子どもが思春期を迎え、自己肯定感が低下してしまいがちです。その中で、環境が変わると「学校が楽しくない」「勉強する内容が急に難しい」などと感じ、戸惑いに繋がることが多いと言われています。少しでも児童生徒たちの身体的・精神的負担を軽減するために、小中一貫教育の取り組みだけでなく、義務教育学校の制度化も実施されました。

学校に社会性育成の場としての機能が求められるようになったことへの対応

5つ目の背景として、学校に社会性教育の場としての機能が求められるようになったことが挙げられます。経済的に共働きが必要になったり、ひとり親家庭の増加が起こったりなど、家庭における児童生徒たちの社会性育成機能が弱まっているといった指摘があります。児童生徒たちの社会性育成機能の低下を少しでも防ぐために、幅の広い学年の交流化や教員が児童生徒に関われる仕組が実現されました。

義務教育学校と従来の小中一貫校の違い

義務教育学校と従来の小中一貫校の違いは以下のとおりです。

義務教育学校と小中一貫校の大きな違いは、小学校・中学校の間に区切りが「ある」か「ない」かです。義務教育学校では、小学校・中学校の区切りがないため、小中一貫校で取られている6-3制度に縛られる必要がありません。そのため、柔軟に学年制を変更することができ、先を見据えた学習計画が可能です。

義務教育学校の4つのメリット

義務教育学校を制度化したことで、下記のメリットが明らかになりました。

・柔軟なカリキュラムで指導ができる
・中1ギャップの緩和や解消が見込める
・異学年交流を実施しやすい
・教員同士で生徒の情報を共有しやすく継続的な指導ができる

1つずつ見ていきましょう。

柔軟なカリキュラムで指導ができる

義務教育学校では、6-3教育の概念が無くなるため、9年間のカリキュラムで指導を進められます。実際に、義務教育学校が導入されている学校では、4-3-2教育や5-4教育が導入されています。柔軟なカリキュラムで指導できることは、児童生徒に寄り添った指導が可能になり、分からない箇所やつまずきやすい内容を重点的に指導可能です。反対に、カリキュラムを早めて高校受験対策を行うなどもできます。義務教育学校のカリキュラムでは、子どもの発達段階やレベルに応じて柔軟に対応可能です。

中1ギャップの緩和や解消が見込める

義務教育学校のメリットとして、中1ギャップの緩和や解消が見込めます。なぜなら、義務教育学校では小学校・中学校の区切りがないため、周辺環境や人間関係などの変化がなく、児童生徒が困惑することがないからです。身体的発達や思春期が早まる児童学生にとって、中1ギャップの問題は将来を左右する大きな問題でもあります。そういった問題が義務教育学校では緩和・解消する方向へ向かっているため、導入したことに大きな価値がありました。

異学年交流を実施しやすい

義務教育学校では、小学校・中学校関係なく1〜9年生が同じ学校で学習するため、幅広い年代の交流が生まれます。異なる世代間で交流を行うことによって、上級生から下級生への憧れや思いやりの学びなど、様々な効果が期待できます。また、精神的・社会的な成長も期待できるため、心身共に成長ができるでしょう。

教員同士で生徒の情報を共有しやすく継続的な指導ができる

義務教育学校が制度化されることで、教員同士で生徒の情報を共有しやすく、継続的な指導ができます。その結果、生徒の特徴や個性に合わせて、指導スピードの調整が可能になります。また、生徒と教員の距離感も近くなり、質問をしやすい関係性の構築が可能です。継続的な指導に加え、生徒たちの心身面のサポートも複数の教員ができることは、大きなメリットです。

義務教育学校で気を付けるべき4つのポイント

最後に、義務教育学校で気を付けるべき4つのポイントをご紹介します。

・人間関係が固定化しやすい
・高学年生徒が低学年生徒に及ぼす影響に配慮が必要
・学年数・学級数が多く細部に目が届きにくい場合がある
・教員は小・中両方の教員免許が必要

順番に見ていきましょう。

人間関係が固定化しやすい

義務教育学校は、人間関係が固定化しやすい傾向にあります。基本的に9年間大きく人が入れ替わることがないためです。人間関係が固定化してしまうと、いじめに合ったり弱い立場に追い込まれたりしたときに抜け出しにくくなります。また、同じ人間関係が当たり前だったことから、卒業後の新たな人間関係に馴染めなくなることもあります。人間関係が固定化しやすい義務教育学校だからこそ、外部の交流や心身の成長を促すサポートが必須です。

高学年生徒が低学年生徒に及ぼす影響に配慮が必要

義務教育学校では、高学年生徒が低学年生徒に及ぼす影響に配慮が必要になります。なぜなら、小学校1年生の低学年から中学校3年生の高学年まで同じ所で学生生活を過ごすからです。例えば、高学年生徒が起こす暴力やいじめを低学年生徒が目にしてしまうと、精神的に悪影響を及ぼす可能性があります。また、身体的に大きな違いがあるため、低学年生徒が休み時間自由に遊べなかったり、気を使ってしまったりする可能性があるため、配慮が必要です。

学年数・学級数が多く細部に目が届きにくい場合がある

義務教育学校では、児童生徒1人1人に目が届きにくい場合があります。9学年に渡る学年数・学級数があり、その分児童生徒の数が多くなるためです。特に、校舎が分離している場合、片側の校舎についての情報が入ってこないといった状況になりかねません。積極的に教員間で情報共有を行い、1人でも多くの生徒に目を届けられるように、生徒の管理体制を整える必要があります。

教員は小・中両方の教員免許が必要

義務教育学校では、小学校・中学校両方の教員免許が必要になります。義務教育学校では小学校・中学校関係なく担当する必要があるためです。しかし、当面の間は、両方の免許がなくても義務教育学校で働くことはできます。とはいえ、いずれは小・中両方の教員免許が必要になるため、義務教育学校で指導しようと考えている場合は、事前に小・中両方の教員免許を取得しておきましょう。

まとめ

本記事では、義務教育学校が制度化された背景や小中一貫校との違い、メリットなどをご紹介、気をつけるべきポイントについてご紹介しました。義務教育学校が制度化されたことで、小学校・中学校で働く教員の負担が軽減されました。
その結果、1人1人の生徒と向き合うことができています。しかし、高学年と低学年の関わり方や人間関係が固定化しやすい点など気を付けるべきポイントは複数あります。
今後、義務教育学校がどのように変化していき、生徒に影響を与えていくのか要チェックです。

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