以前から日本は教員不足だといわれています。教員職に興味を持っている人はもちろん、現在学校で教員として働いている人にとってもなぜ不足する事態になったのか、疑問に思っている人もいるのではないでしょうか。この記事では日本の教員不足の原因や実情についてまとめました。併せて、教員不足を解消するための自治体による取り組みなども紹介しますので、ぜひご一読ください。
日本の教員は現状約2500人以上不足している
令和3年に実施された「教師不足に関する実態調査」によると、日本の教員不足は以下の通りです。
・小中学校 2086人(始業時)、1701人(5月1日)
・高等学校 217人(始業時)、159人(5月1日)
・特別支援学級 255人(始業時)、205人(5月1日)
全ての学校で合わせると、始業時に2500人以上も教員が不足していたことが分かります。ちなみに教員不足とは、教員などの講師の確保ができずに、学校に配置されている教師の数が各都道府県や指定都市などの数を満たしていない状況をいいます。実際に現場に立っている教員の中には、教員不足を認識してはいても、ここまで足りていないことに驚いている方もいるのではないでしょうか。
小学校では学級担任の代替が行われている
義務教育でもあり、教員不足の割合が多い小学校では学級担任を代替として対応しています。実際に代替しているケースは474件(教師不足に関する実態調査教師不足に関する実態調査引用)にもなり、学級に担任がいない状況にならないような工夫をしています。
・指導体制を拡充するために配置される予定の教員
・生徒指導のために配置された教員
・主幹教諭
・指導教諭
・教務主任
・管理職
などで学級担任の代替を行い、教員の不足を補っているケースがほとんどです。その分教員にかかる負担が増える問題も出ています。中学校・高等学校では教科担任不足の状況が見られる中学校や高等学校では、主に教科担任が不足している傾向にあります。中学校は9324中16校で不足しています。主に家庭科・音楽・美術・理科・数学などの教科担任不足が起きています。高等学校では、3502校中、5校で不足しています。主に家庭科・国語・理科・保健体育などの教科で見られており、7月時点で解消されるケースがほとんどです。地域によっても教科担任不足の割合は変わるなど、都道府県による差も見られます。教科担任を必要とする中学校・高等学校の場合は、授業への影響も考えられます。
教員不足はなぜ発生した?
教員不足の原因は産休、育休取得者数が増えたこと、特別支援学級が増えた、病休者数が増えたなどの要因により、教員不足が発生していると考えられています。そもそも教員を目指す人の割合が減っているのも理由になります。下記にて、教師不足の4つの原因について詳しく見ていきましょう。
必要な教員の数が見込みよりも増加した
教員不足は、必要な教員数がもともとの見込みよりも増えたことにあります。例えば産休・育休について、見込みより増加しているのによくあてはまると答えた人は全体の24%(教師不足に関する実態調査教師不足に関する実態調査引用)にもなります。特別支援学級で17%が、病休者数は16%の人がよくあてはまると考えています。教員の多くは教員数が以前よりも必要になったと実感しています。これは教員向けに行ったヒアリングで分かっている数字であり、令和元年に文部省にて行った自治体(一部)と同等の結果が出ていることからも分かります。
臨時的任用教員が不足している
教員不足の要因の1つに、臨時的任用教員の不足が挙げられます。臨時的任用教員の不足には、講師登録名簿登載希望者数の減少や、臨時的任用教員のなり手が民間企業などへ就職するといった背景があります。教員の資格を取得したからといって必ずしもその道で働くとは限らないケースが増加しています。また、臨時的任用職員が、手続きを負担に感じることから免許を更新しない場合もあるようです。
教員を志す人が減少している
教師確保の状況アンケートによると、勤務環境に対する風評による忌避があることも分かります。教師志望の学生が減っている状況は以下のような理由が考えられます。
・長時間労働による過酷な労働環境
・部活動などの顧問による業務負担
・給料などの待遇が良くない
・保護者や地域住民などの対応による負担
など仕事の負担が増えています。そのため、教員を志す人の数が減少し、教員不足を引き起こしています。
大量採用世代が退職期を迎えた
1970年代のベビーブームに合わせて大量に採用された教員が定年退職を迎えていることから、教師の平均年齢が低下傾向にあります(学校教員統計調査)。年齢制限の拡大や撤廃を図るのはもちろん、ミドルリーダー層の積極的な採用も行っています。他にも、再任用希望調査等を早期の段階から行い、急な教師不足にならないように管理している自治体もあります。採用見込みを数年先まで算出する対策をしています。
教員不足の解消を目指す自治体や政府の取り組み
講師の登録者数を増やすことは、各自治体や政府の教育における課題といえるのではないでしょうか。ここでは、教員不足を解消するべくどのような取り組みが行われているか紹介していきます。
複数年を見越した採用計画の策定
自治体によって教員不足の割合や人数などの違いがあります。そのため、具体的な目標を設定した上で、採用者数を一定に保てるような取り組みを行っています。講師数を調整するのはもちろん、どの程度の教師不足なのかも含め管理しています。目先の講師数だけでは教師不足は解消しません。これから5年・10年先を考えたときにどのような採用計画を行う必要があるのかを考えています。35人学級で教員の定数を増やすなど、教員が働きやすい環境を整えるのも課題の1つです。
講師登録者数の増加を目指す広報活動
講師登録は自治体別に行われていることもあり、希望する市区町村にて登録が必要になります。それぞれの市での登録が必要になるため手間もかかります。講師登録をしていても、常勤勤務が優先的に採用され、臨時的任用職員になるとなかなか決まらないケースもあります。講師登録が済んでいないと教員として働く機会も少なくなるため、いかに登録者数を増やしていくか、自治体の取り組みが必要になります。ポスターチラシなどの広報はもちろん、民間求人サイトを使って講師の募集をしているケースもあります。
大学などとの連携
教師の魅力を伝えるため、教師養成塾を開校したりインターンシップを行ったりと地域の大学と連携する取り組みもあります。これらは教師とはどのような仕事なのかをより身近に感じてもらうための取り組みといえます。地域の大学と連携を取ることで、教育や研修システムの構築、特別選考をしています。なお、大学からの推薦に基づき実施するのは、協定締結大学の現役学生が対象です。推薦を通して希望の学校で教員として働けるため、生徒にとっても嬉しい制度といえるでしょう。
教員免許の取得しやすさの向上
教員免許の取得は、そこまで難易度が高いものではありません。大学を卒業すると単位が取得できるので、計画的に学べば卒業と同時に免許を取得できます。教員採用試験の倍率は3倍〜5倍と高く、採用試験に合格できず浪人してしまう人もいます。教員免許状を保有していても長く教壇に立っていない人がスムーズに入職できるよう、オンラインでできる学習コンテンツの開発や、教師の養成・採用・研修を検討するなど、見直す動きが出ています。
教員免許更新制の廃止
2022年7月1日より、教員免許更新制が廃止されました。今までは10年に1度更新を必要としていましたが、今後は必要ありません。もともと教員免許は無期限で有効でしたが、2003年の学習指導要領の一部改正によって、最新の知識や資質能力保持のために有資格になりました。10年に1度、30時間以上の講習を受講して免許を更新する「教員免許更新制」の導入が行われましたが、整合的ではないとされ、見直されることになりました。2009年3月以前に取得した人は、今後何も手続きがなく教員免許を使えるように変わっています。
多様な人材が学校現場に参画できるルートの拡充
複雑・多様化する現代で、社会とのつながりを通して学ぶためのルート拡充の取り組みが広がっています。外部人材による学校現場への参画により、社会全体が次世代の育成に対して当事者意識を持つことを目的としています。多様な人材との出会いには、子供の成長にも大きな価値があると考えられています。また、小学生や中学生などの義務教育を対象に施行された「義務教育特例」により、中学校の免許状を持つ講師が小学校の免許の取得を容易にしたものもあります。働きながら単位を取得することで、民間企業に勤めながら学校現場でも勤務できるように変わります。
働き方改革など教員の処遇の見直し
文部科学省による教員の働き方改革や処遇の見直しについて、話し合いが行われています。現状の教員は1972年に施行された「教職調整額」によって、給与相当の4%を一律加算しています。その代わり、時間外業務手当や休日勤務手当は支給しないなど、超過勤務手当が出ない仕組みです。働き方改革が行われたこともあり、どのような職場でも労働時間を適正に管理することが求められるようになり、教員の待遇などの見直しが課題となっています。
教員不足解消のために現場で働く教員ができること
教員の処遇の見直しが行われる今だからこそ、伝えられることがあるのではないでしょうか。ここでは、教員不足を解消するために、教育の現場で実際に働くからこそできることについて解説します。
教員のやりがいや魅力を発信する
教師の魅力ややりがいは、実際に教員として現場に立っているからこそ発信できるものです。教員の仕事は「長時間労働」「給料が安い」「ブラック」といった印象を持っている人も少なくありません。たしかに教員の仕事は簡単なことばかりではありませんが、その分やりがいが大きいといえます。時には大変なこともありますが、教員にしか実感できないことや、生徒と向き合う中でしか感じられないことなど、その魅力を伝えていきましょう。
現状に疑問を持ち改善に向けて行動する
教師の問題に対して疑問を持ち、改善するための行動を起こすのは大切なことです。すでに問題になっていることの多くは、教員の中で今の働き方に疑問を持ち行動に移した人がいるからこそといえます。「生徒を相手にしているから長時間労働が当たり前」「土日は部活動の顧問で休めない」など、公務員だからとそのままになっていたことが多くあります。疑問を持ち、変えていくための行動が現状改善につながります。疑問は、教員の処遇を変えるチャンスでもあると心得ましょう。
まとめ
教師不足の原因は、必要な教員の数が見込みよりも増加した、臨時的任用教員が不足している 、教員を志す人の減少 、大量採用世代が退職期を迎えたことにあります。そこで政府や自治体は、講師登録者数の増員や大学などとの連携、教員免許の取得しやすさの向上、教員免許更新制の廃止など、教師が働きやすい環境づくりに取り組んでいます。働きやすい環境や処遇が整えば、教員不足が解消され、働きやすい環境に変わっていくでしょう。そのためにも、教師の仕事がいかに魅力的なのかを積極的に発信したり、現状に疑問を持ち改善に向けて行動したりすることが大切です。