
英語のデジタル教材導入が始まり、教育へのAl活用が身近となりました。「教育現場でAIを活用するメリットは?」「AI導入により教育がどう変わっていくのか?」上記のような疑問を持つ人もいるでしょう。この記事では、教育現場でのAI活用について解説します。AI導入事例も紹介するので、教育現場でのAI活用法を知りたい人はぜひ最後までご覧ください。
そもそもAIとは?AI教育でできることや重要性も解説

さまざまな場所で活用されているAIですが、具体的にどんな技術のことを言うのでしょうか。ここではAIの説明と、教育現場でできることを項目別に解説します。
AIとは人間の思考回路を模倣したコンピューターシステムのこと
AIは「人工知能」とも呼ばれ、人間の思考回路を模倣したコンピューターシステムを指します。私たち人間は、物事を見て考え、より良い行動を模索する生き物です。色々なパターンを考え、一番良いと思うものを選び無意識に行動しています。この複雑な人間の思考回路を再現できるのがAIです。事柄への対処を分析し、過去の事例をもとに推測します。場面に合ったプログラムを実行できるのが特徴で、教育業界にも導入され始めているのです。
現在のAIが教育現場でできること
AIを活用するには、教育現場で役立つ場面を知る必要があります。ここでは、実際に活用できる場面を3つに分けて解説します。
データ分析を基にした効果的なカリキュラムの構成
教育現場にAIを導入すると、データ分析をもとにしてカリキュラムを構成できるようになります。これにより、AIによるデータ分析で効果的な学習プログラムを作成できます。これまでは、教師が生徒の様子に合わせてカリキュラムを考えてきました。多忙な中、成績を分析し効果的なカリキュラムを作るのは厳しい面もあるでしょう。AIの得意分野はデータ分析です。生徒の成績をデータとして入力すれば、どの部分を重点的に指導すればよいか識別します。今まで教師の経験や感覚で行っていた部分を、分析結果を根拠にしたカリキュラム構成ができるようになるのです。
生徒一人一人に合わせた適応学習(アダプティブラーニング)
AI活用により、それぞれの生徒に合わせた学習内容の提供が可能になります。AIのデータ分析により定着していない分野が明確になるため、一人一人に合わせた課題の作成に役立ちます。生徒の学力にはそれぞれ個人差があります。クラスで同じ指導をしても、生徒が同じ定着度になるわけではありません。個別に学習課題を用意するとなると、多くのプリントなどが必要になります。限られた勤務時間の中で個別課題を作成するのは、現実的ではありません。デジタル教材を活用すれば、個別課題作成をAIに任せることができます。教師の負担削減と生徒に合った学習の提供が可能です。
音声技術や文字認識による業務の自動化
AIの音声技術や文字認識を使えば、教師の業務負担を軽減できます。自身が教育課程で専攻した分野は得意でも、苦手意識のある教科もあるでしょう。AIの音声技術を活用すれば、英語の発音ができているか正確な判断ができます。
AIが重要な理由は幅広い生徒への対応ができること
教育現場で多様な役割を果たせるのも、AIが重要な理由の一つです。学校で行う教育活動でAI活用の場面が多いためです。紙ベースの学習内容では、教師が問題を選び生徒に与えるのが一般的でした。問題練習の結果などを教師が分析し課題を選択していました。しかし、教師が力をつけさせたいと思う内容と生徒に足りない内容に食い違いが起こる可能性もあります。デジタル教材の利用により、生徒に適した問題作成が自動で行われます。苦手分野を効率よく学べるので、学力向上に役立ちます。
文部科学省の生成AIのガイドラインとは

AI技術が教育現場で適切に活用されるために、文部科学省は生成AIのガイドラインを公表しています。小・中学生向けには「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」が、高校生や大学生向けには「大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて(周知)」が示されています。上記のガイドラインは、政府全体の議論やG7教育大臣会合での内容を踏まえ、さまざまな有識者や中央教育審議会委員からの意見を幅広く取り入れて策定されました。ガイドラインは、教員や生徒が生成AIを安全かつ効果的に利用するための具体的な方向性を示しています。
文部科学省が重点を置く「生成AI」とは

文部科学省が注目する「生成AI」は、ジェネレーティブAIとも呼ばれ、テキストや画像など多様なコンテンツを自動で作り出す技術です。ChatGPTやCopilot、Geminiといった対話型AIがこれに該当し、まるで人間と会話しているかのような自然なやりとりができます。文章の下書き作成、翻訳、ブレインストーミングの支援など、民間企業での活用事例も増えています。生成AIによる応答は、膨大なデータから学習した大規模言語モデル(LLM)が基盤です。ユーザーが与える指示文(プロンプト)を工夫することで、精度はさらに高まります。ただし、生成される情報の正確性には課題が残るため、利用の際には注意が必要です。対話型生成AIの回答は、あくまで「参考情報の1つ」として捉え、最終的な判断は利用者自身が行うべきといえるでしょう。また、生成AIと従来のAIにはいくつかの明確な違いがあります。従来のAIは、特定のタスクを実行するために設計されており、その範囲外の動作は基本的にできませんでした。一方、生成AIは大量のデータから学習することで多岐にわたるタスクに対応でき、特に言語に関するタスクにおいては高い柔軟性を持っています。
ガイドラインから見る生成AIを活用する目的

文部科学省のガイドラインは、「情報活用能力」を育む上で生成AIの活用を重視しています。これは、業務効率化や生産性向上といったAIの利点を教育現場にも生かすためです。導入に当たっては、生徒が生成AIの特性、メリット・デメリット、そしてAIに人格がないこと、自身の判断の重要性を理解することが求められます。生成AIは発展途上の技術であるため、個人情報流出や著作権侵害、偽情報拡散などのリスクも認識しつつ、最終的には子どもたちの育成に加え、教師の働き方改革にも役立てることを期待されています。
数理・データサイエンスを総務省も支援

総務省は、数理・データサイエンスを積極的に支援しており、AIの活用が加速しています。具体的な取り組みとして、総務省が公開している「自治体向けAI活用・導入ガイドブック」が挙げられます。自治体がAIを導入する際の具体的な手順を分かりやすく解説しており、既にAIを導入している自治体の豊富な活用事例も掲載されているガイドブックです。ガイドブックに紹介されている効果的な取り組み事例では、事業の概要、AI導入によって得られた具体的な効果、取り扱っているデータ、さらには各事例のポイントが明確に示されています。AI導入が進んでいない自治体にとって、導入を促進する上で有益なコンテンツといえるでしょう。多くの自治体では、AIに関する専門知識を持つ職員が少ないのが現状です。そのため、職員一人一人のAIに関する知識を深めることが必要です。総務省の支援は、AI教育の普及と社会のデジタル化を力強く後押ししています。
AI導入で教育現場が得られる6つのメリット

AI導入で教育現場が得られる主なメリットについて、6つに分けて詳しく解説します。
メリット①一人一人の学習レベルに合わせた問題提供ができる
AIにより学習能力に合わせた問題提供ができます。データ分析はAIの得意分野なので、間違いの傾向を掴んだ個別問題の作成が可能です。苦手分野を重点的に学習できるので効率アップが望めます。
メリット②困ったときにリアルタイムでアドバイスできる
AI導入により、生徒のつまずきをその場で察知し、問題解決に導くアドバイスができます。一斉指導中はリアルタイムでの個別指導が困難です。その点、タブレット学習では即時に採点や見直しが可能です。AI導入により、待ち時間を作らず学習できる体制が整います。
メリット③成績を客観的視点から正確に分析できる
AI活用で成績を客観的に見て正確に分析できます。評価基準に根拠が持て、平等に評価できるメリットがあります。成績は他の生徒と比べる相対評価ではなく、基準に基づいた絶対評価でつけられます。しかし、教師も人間です。感情が入り評価基準がぶれる可能性もあります。評価にAIを活用することで、一定の基準に基づいた成績を付けられます。根拠を持って説明ができ、過去の成績と比較するときにも役立ちます。
メリット④教師の負担を軽くする
AI導入で教師の負担を軽くできるメリットがあります。教師の仕事は終わりが見えません。近年働き方改革が叫ばれていますが、勤務時間を減らすのは困難を伴います。AI利用で時間に余裕ができた分、生徒の相談や指導などに活用できるのです。
メリット⑤教育の低コスト化が実現できる
AIを教育現場に導入することで、業務の自動化が進み、人件費の削減につながる可能性があります。これまで、教師は多岐にわたる雑務をこなさなければならず、大きな負担となっていました。AIが雑務を担うことで、教師の負担は大幅に軽減されます。AIの活用により「業務量を教師の人数で補う」という従来の考え方が不要になり、教育の質を維持しつつ、人件費を抑制した低コストでの運営ができる可能性があるでしょう。
メリット⑥AI活用でいつでも教育ができる
AI教育の導入は、生徒が24時間365日いつでも学習支援を受けられる点がメリットです。夜中や早朝、週末や祝日など、生徒が「学びたい」「サポートがほしい」と感じたそのときに、AIが即座に対応します。生徒は「こんな質問をしたら迷惑かな」「また同じことを聞いたら怒られるかも」と遠慮する必要がなくなります。生徒自らの学習意欲や進度に合わせて学べる環境が実現され、教師も助かるでしょう。
AI導入による教育現場の5つのデメリットとそれぞれの解決策について

AI導入で起こるデメリットはあるのでしょうか。ここでは、教育現場のAI導入の主なデメリットを解説するとともに解決策を提案します。
デメリット①基本的なデータの蓄積が必要になる
AI導入のデメリットとして、基本的なデータの蓄積が必要になることが挙げられます。AIの正確性はデータの母数によります。データが多いほど精密な分析ができるようになるためです。そのため、成績などのデータ集めが必要となり、準備に時間を取られる可能性があります。解決策として、蓄積データをなるべく早い段階で始めておくことが考えられます。これにより、AIの早期活用へとつながります。
デメリット②生徒・教師の「思考力」の低下を招く
AI導入により、生徒や教師の思考力低下を招く恐れがあります。生徒も教師も、AIに頼りすぎないことがポイントです。自分の興味のある分野を見つけたり、アクティブラーニングなど物事を深く考える時間を確保したりしましょう。
デメリット③これまでの指導方法では通用しなくなる
AI導入で、これまでの指導方法では通用しなくなります。従来の一斉指導では、生徒の能動的な学びにつながらないためです。これからの生徒には、得た知識を活用し新たな問題解決につなげる力が求められています。学校教育も知識の習得だけでなく、自ら学ぶ力や思考力などをバランスよく取り入れた授業を行わなければなりません。AI導入で、個別の問題解決や話し合いなどの協働学習がより深いものになります。生徒がこれからの人生に学びを生かせるよう、時代に合わせた授業改善が求められているのです。
デメリット④教育格差が拡大する可能性がある
AI技術の利活用には最新のデジタルインフラが必須ですが、全ての生徒が平等に恩恵を受けられるわけではありません。経済的に恵まれない地域や、技術設備の整っていない学校では、AIツールや質の高いカリキュラムへのアクセスが限られてしまいます。デジタル環境が充実している生徒とそうでない生徒との間で学習機会に差が生じ、既存の教育格差がさらに拡大し、教育の公平性が損なわれる危険性があります。
デメリット⑤AIが抱える本質的な問題がある
AI教育には、技術的な限界やブラックボックス化、倫理・運用面の課題、技術進化に伴う新たなリスクが存在します。リスクを少なくするためには、十分な対策と人間による監督が必要です。AI教育を進める上で、生成AIが事実と異なる情報を生成する「ハルシネーション」には注意が必要です。ハルシネーションとは、もっともらしく見えるものの、実際には誤った回答をAIが提示する現象です。生徒がAIの回答をうのみにしてしまうと、誤った知識を習得する危険性があります。問題を避けるためには、情報リテラシー教育が重要です。AIが不正確な情報を提供する可能性や、AIの出した答えを自分自身で検証(ファクトチェック)する必要性を生徒に伝えましょう。
倫理・運用面の構造的課題
AI教育の導入において、生徒の個人情報保護とデータ管理は重要な課題です。AIは膨大なデータを学習に利用するため、その管理が不適切であれば情報漏えいや不正アクセスのリスクが高まります。生徒のプライバシーを確実に守り、学習データが適切に扱われ、第三者に不当に渡らないように透明性が高く信頼できる管理体制を確立しなければなりません。また、データの利用に当たっては生徒本人や保護者に対して十分に情報提供し、明確な同意を得ることが必要です。これらの倫理的かつ運用上の課題に向き合うことが、AI教育を安心して導入するための基盤です。
技術進化に伴う動的リスクがある
AIシステムを導入するには、まずテスト結果などの膨大なデータを収集しAIに学習させてから、プログラミングを用いてシステムに組み込む必要があります。データ量が膨大な場合、AIが効果的なルールを見つけ出すには時間がかかるため、高性能なハードウェアも必須です。必要な量のデータが不足していたり、AIにデータを学習させるためのプログラミングスキルがなかったりする場合には、AIの導入自体が困難になる可能性が考えられます。AI技術は常に進歩しており、その進化に対応し続けるための知識や設備が求められます。AI教育を効果的に推進するには、技術的な基盤と、AIに対応できる人材の確保が課題となるでしょう。
教育現場でよくある課題
AI教育の導入は大きな可能性を秘めている一方で、現在の教育現場にはいくつかの共通課題が存在します。まず、教師のAIに対する知識やスキルの不足が挙げられるでしょう。新しい技術を授業に取り入れるには、教師自身がその特性や操作方法を理解し、指導に生かす能力が求められます。日々の業務に追われる中で、AIに関する専門知識を習得する時間や機会を確保することは容易ではありません。次に、教育現場におけるデジタルインフラの整備状況にもばらつきが見られます。GIGAスクール構想で1人1台端末が普及したとはいえ、高速なインターネット環境やAIツールを円滑に利用できる高性能な機器が、全ての学校に十分に行き渡っているわけではありません。
教育現場でAIを活用した導入事例を紹介

教育現場でのAI活用をイメージするには導入事例を知るのがおすすめです。ここでは、教育現場へのAI導入事例を3つ紹介します。
事例①個別に合わせた学習支援システム
AIは個別に合わせた学習支援システムに活用されています。生徒一人一人の学習能力を分析し、習熟度に合った問題を用意できるのが強みです。例えば、AIを用いたデジタル教材の導入で個別学習支援が可能です。文字の大きさを変えたり、音声を読み上げたりする機能もあるので、学習障がいのある生徒にも対応できます。オンライン学習など、教師がいない場でも効率的な自主学習に臨めるのが特徴です。
事例②【英語】音声認識を活用した授業スタイル
英語など音声を重視する授業にAIが活用されています。話す活動を重視した授業で最も活用できる技術です。AIによる音声認識は、英語学習で取り入れられています。英語学習ではネイティブの発音をよく聞き、模倣して話すことが重要です。しかし、自身が外国語の専科でない場合は判断に迷うケースもあるでしょう。その点、デジタル教材に付属している音声認識を使えば便利です。正しく発音できているかをAIが客観的に判断し、点数化して教えてくれます。
事例③顔認識による出席確認の自動化
AIの顔認証技術で出席確認の自動化を行えます。教師の負担軽減になり、オンライン授業での出席確認にも応用できる方法です。従来の出席確認は教師が行い集計していました。まとめたものをパソコンに打ち込み計算を自動化したとしても、データ入力の手間がかかります。AIの顔認識システムを使えば、誰がいつ出席したか自動で分析してくれます。出席日数の集計などの雑務から解放されるメリットがあります。
教育現場に対して今後AIに期待されること

AI活用で、生徒の能力に合わせた課題設定やカリキュラム作成が可能です。デジタル教材などの利用で、教室でもオンラインでも同じ学習内容で学べるので、学びの質が保たれます。教育格差の改善も期待できます。進路指導でAIを活用するのも良いアイデアです。成績と進路のデータが蓄積されれば、AIが向いている進路や職業のアドバイスに活用できるでしょう。また、AIでは補えないアクティブラーニングに取り組むのも大切です。変化の激しい現代は、自ら学び考え、自分なりの答えを導く力が求められています。AIと同様に、今後の人生を自分で切り開く力を育てるアクティブラーニングも注目されているのです。
まとめ

短期間での成績アップを狙うため、AIと教師で仕事分担を行う時代になりました。今後、教育現場におけるAI活用が進むと予測できます。生徒の学力向上や教師の業務改善に役立つ反面、分析に使うデータ蓄積を行わなければならない点がデメリットです。学習能力の向上と同時にアクティブラーニングなどを取り入れ、生徒自ら考える力を育てていきましょう。


