コーチングとは?基本スキルと教育現場で活用するメリットを紹介

2023/12/18(月)

近年、教育手法の1つとして注目されているのがコーチングです。コーチングと聞くと、会社などで取り入れられているイメージがある方もいるかもしれませんが、教育においてもコーチングは効果的だとされています。しかしコーチングについて、具体的に何をするのか、どのように教育に生かすのかといった疑問を持つ教員の方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、コーチングの概要やスキル、コーチングがもたらす教育上のメリットなどを解説します。併せて、コーチングの活用例や学び方も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。

教育メソッドの1つ「コーチング」とは

コーチングとは、コミュニケーションを通じて、児童・生徒それぞれの目標達成と自立をサポートする教育メソッドです。コーチングでは、児童・生徒に知識やスキルを与えたり、教えたりすることはありません。児童・生徒が本来持つ意欲や能力を引き出すのがコーチングの基本です。

コーチングとティーチングの違い

コーチングは「引き出す」、ティーチングは「教える」という違いがあります。ティーチングは、児童・生徒に答えを教え、知識・スキルを覚えさせることを目的としています。そのため、ティーチングは基本的に教師から児童・生徒への一方通行型の方法です。一方、児童・生徒が自ら答えを出そうとする力を引き出し、答えにたどり着けるよう導くのがコーチングです。コーチングでは、教師と児童・生徒との双方向の対話がカギになります。

なぜ教育にコーチングが必要なのか

教育においてコーチングが必要とされるようになった背景には、学校教育の変化があります。教育現場では探究学習やPBL(問題解決型学習)などが導入され始め、教師が一方的に教育する従来のスタイルではなく、児童・生徒が自主的に学ぶスタイルが重要視されるようになりました。教育の変化に伴い、教員に求められる役割や能力も変わり、児童・生徒の多様な意見や学び合いを引き出すコーチング力が必要とされるようになったのです。

コーチングに必要な3つの基本スキル

コーチングは「傾聴」「質問」「承認」の3つの基本スキルによって成り立っています。ここでは、それぞれのスキルについて解説します。

①傾聴

傾聴する際には、以下3つのことに注意します。

・聴くことに専念する
・最後まで話を聴く
・沈黙を大切にする

傾聴の基本は「聴く」ことへの専念です。片手間で聴いたり、話を遮ったりしてしまっては、傾聴になりません。聴くことへの集中が重要です。また、傾聴の際には沈黙の時間も大切にします。沈黙は児童・生徒が考えを巡らせている時間であり、沈黙を破ってしまっては児童・生徒の力を引き出すことはできません。さらに、会話のスピードやトーンを合わせることや、うなずき・相槌・オウム返しなどで聴いている態度を示し、児童・生徒が安心して話せる雰囲気にすることなども、傾聴における大事なポイントです。

②質問

コミュニケーションの中で児童・生徒に質問する際には、以下2つのことに気を付けましょう。

・攻撃的にならない
・オープンクエスチョンを入れる

何かを質問するときに「なぜやらなかったの?」「なぜこれを選んだの?」と「なぜ」を多用する教員の方もいるのではないでしょうか。しかし「なぜ」の質問は、相手を非難したり攻撃したりするような印象を与えるため、多用は望ましくありません。コーチングでは、児童・生徒に安心感を抱かせるような質問を投げかけることが大切です。例えば「なぜやらなかったの?」という質問を「何が原因なのかな?」と変えるだけで攻撃性はなくなり、かつ、問題の本質を捉えられます。また、オープンクエスチョンを入れることも重要です。オープンクエスチョンとは、イエス・ノーで答えられない質問のことです。イエス・ノーで答えられる質問は「なぜ」の質問と同様、威圧的になりがちです。オープンクエスチョンを問うことで、安心感を抱かせられるとともに、児童・生徒に自ら考えさせる機会を与えられます。

③承認

承認とは、教員が判断を下すのではなく、見たまま聴いたままを認めることを指します。教員が共感的立場であることが大切です。児童・生徒のありのままを認め、それを伝えることで児童・生徒自身に現状を把握させ、答えを引き出させます。例えば、宿題を忘れてしまったときには「宿題を忘れた」という事実や「忘れて焦っている」という児童・生徒の感情を、否定も肯定もせず伝えることで、児童・生徒は自らが置かれている現状を把握します。さらに、教員が質問を投げかけながら対話を続けることで、児童・生徒は現状を解決する方法を自主的に導き出しやすくなります。このように、承認においてはありのままを受け入れ、認めることが重要です。

コーチングが教育にもたらすメリット3つ

コーチングは生徒と教員の双方へ良い影響がもたらされると考えられています。ここからは、コーチングの実施によって得られる3つのメリットについて解説します。

メリット①生徒とのコミュニケーションがうまくいく

現代では世代によって抱く価値観や意識に大きな差があり、それらの差によって世代間のコミュニケーションが困難になっている現状があります。もちろん、教師と生徒とのコミュニケーションも例外ではありません。コーチングは各世代特有のコミュニケーションスキルに依存しないため、コーチングスキルを身に付ければ、難しいとされている教師・生徒間のコミュニケーションも円滑に行えます。

メリット②感情的に言葉を発することが少なくなる

教員が児童・生徒に何かを指導するとき、感情が先走ってしまうことは少なくありません。例えば、宿題を忘れた児童・生徒に対して「なぜ宿題をしてこなかったの?」と感情任せになってしまうケースが考えられます。しかし、コーチングを行う際には「コーチングをしている」という意識が自己コントロールを促すため、指導が感情に左右されることが少なくなります。目標達成や課題解決のための的確な言葉をかけられるようになります。

メリット③不得手な分野での指導にも使える

教員には多くの専門スキル・知識を習得していることが求められます。特に、小学校では1人の教員が幅広く教科指導を行うため、不得手とする教科の指導も担わなければなりません。コーチングは児童・生徒に何かを教える教育手法ではないため、専門分野に関係なく応用できます。つまり、コーチングを行えば、たとえ不得手な分野であっても、児童・生徒の力を引き出しながら授業が行えるということです。

教育現場におけるコーチングの活用例

ここからは、どのようなときにコーチングを活用できるのか、考えられる3つのシーンを紹介していきます。

導入段階での活用

コーチングを活用すれば、児童・生徒の気付きを促しながら導入が行えます。例えば「今日は〜をします」「〇〇と△△を用意してください」と1から10まで説明してしまっては、児童・生徒に自ら考え、気付かせることはできません。コーチングを意識し「〜を行うためには何が必要だと思う?」「どんな工夫ができるかな?」と質問することで、児童・生徒は自ら気付き、答えを導き出そうとする力を引き出せます。児童・生徒に自ら学びの目的を気付かせることが、導入段階でコーチングを取り入れる際のポイントです。

不得意な教科での活用

不得意な教科においてもコーチングを活用すれば、児童・生徒の主体性を引き出せます。仮に、美術を苦手とする場合「今日は〇〇の絵を描きます」「赤と白を使いましょう」と一辺倒な指導になってしまう教員もいるのではないでしょうか。コーチングを意識することで「〇〇から何がイメージできるかな?」「何色を使ったら良いと思う?」と、児童・生徒の想像力や主体性を引き出しながら授業を進められます。また「きれいな色で描けたね」と共感を示すことも、コーチングの一種です。不得意な教科でもコーチングを活用することで、子どもたちの自主性を引き出す授業ができます。

問題行動があったシーンでの活用

問題行動があったシーンでは、コーチングによって解決の道筋を示せます。例えば、忘れ物をしてしまった児童・生徒に対して「なぜ忘れたの?」「謝りなさい」と頭ごなしに指導することは好ましくありません。コーチングを活用することによって「忘れてどういう気持ち?」「恥ずかしいんだね」と、忘れてしまったことに対する児童・生徒の感情に共感し、「どうすれば良かったのかな?」と解決の方向へと導けます。また「何か手伝えることはある?」と協力する意思を示したり「頑張ってね」と期待を投げかけたりすることで、児童・生徒のやる気を引き出せます。問題行動があったときには、コーチングで児童・生徒が自ら解決できるようサポートすることが大切です。

教員がコーチングを学ぶ方法

独力で習慣付けること以外にも、コーチングを学ぶ方法はあります。教育現場でコーチングを適切に取り入れるためにも、これから紹介する2つの方法は有効といえます。

教員向けの講座で学ぶ

教員向けのコーチング講座はいくつか開かれており、中にはオンラインで受講できるものもあります。ここでは「日本青少年育成協会の講座」「コーチング心理学協会の講座」の2つを紹介します。

日本青少年育成協会の講座

日本青少年育成協会では「教育コーチ養成講座Ectp」を提供しています。教育コーチングのスキルや理論をスモールステップで学べるのが、教育コーチ養成講座Ectpの特徴です。講座は、入門講座~マスターまで7段階に分けられています。また、3日間の短期集中講座や「E-Coach college」と呼ばれる特別講座(中級以上)も実施しており、自分に合った講座を受講できます。さらに、Live講座とWeb講座の2つから受講タイプが選べます。合格後は、認定教育コーチが取得できるため、資格として自分のコーチングスキルを証明できます。

コーチング心理学協会の講座

一般社団法人コーチング心理学協会では、社会心理学・発達心理学・教育心理学・キャリア心理学を取り入れたコーチングプログラムを提供しています。教員向けには「認知行動コーチング」「コーチング心理学基礎講座」「フィードバックスキルコーチング」「教える・伝えるためのコーチング心理学:サイコロジカルインストラクター講座」の4つが開講されており、コーチング心理学やフィードバックに絞ったスキルなどについて幅広く学べるのが特徴です。

コーチングについて書かれた本で学ぶ

今や数多くのコーチング本が出版されています。その中には「教師のためのコーチング術」「教師のための子どもが動く!コーチング50」など、教員のためのコーチングについて書かれた本もあるため、実践に生かせるコーチングスキルを身に付けることが可能です。コーチング講座を受講するのは敷居が高いと感じる方は、コーチング本を読むところから始めてみることをおすすめします。

まとめ

コーチングとは、児童・生徒が本来持つ力を引き出す教育メソッドです。教えることを主とするティーチングとは根本的に手段が異なります。探究学習やPBLなどの導入により、教員の求められる役割が変化したことでコーチングの重要性が高まりました。コーチングを行うためには「傾聴」「質問」「承認」それぞれのスキルを向上させることが重要です。コーチングは講座を受けたり、本を読んだりすることで学べるため、教育の移り変わりに対応できるよう、スキルを習得しましょう。

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