自己肯定感、自己効力感、自己有用感はどう違う?意味や高め方を解説

2024/01/17(水)

近年「自己肯定感」という言葉がよく使われるようになりました。それだけ現代社会において自己肯定感の重要性が認識されてきたということでしょう。また、自己肯定感と似た言葉に「自己効力感」「自己有用感」があります。どれも教育現場において育てたいといわれる感覚ですが、意味やそれぞれの違いがよく分からない方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では自己肯定感、自己効力感、自己有用感について解説します。併せて教育現場におけるそれぞれの高め方もご紹介するので、現場での取り組み方を知りたい方はぜひご一読ください。

自己肯定感、自己効力感、自己有用感のそれぞれの意味と違い

自己肯定感、自己効力感、自己有用感はよく似た言葉ですが、意味はそれぞれ異なります。3つの力を伸ばすべく支援するためには、言葉の意味を正しく把握することが大切です。以下では3つの言葉の意味と違いについて、詳しく説明します。

自己肯定感=自分のありのままを尊重する感覚

どのような状況でもあらゆる自分を受け入れる点が特徴で、例えば自己肯定感が高い場合には、無条件で「自分はここにいていい」「自分には価値がある」と感じられます。

自己効力感=自分の力を信じられる感覚

特定の物事に対し「自分ならやり遂げられる」という自信を持てることです。ありのままを受け入れる自己肯定感とは異なり、自己効力感は過去の成功体験が獲得のきっかけとなります。
心理学では、自己効力感は下記の3タイプに分類されます。

・自己統制的自己効力感
・社会的自己効力感
・学業的自己効力感

それぞれの内容を下記にまとめました。

自己統制的自己効力感

自己統制的自己効力感とは「自分ならできる」という気持ちのことで、自己効力感の中で最もスタンダードなタイプです。 「できる」と自分を信じられるからこそ、失敗にもめげずに立ち直れる強さを持っています。また自分の行動や感情をコントロールすることを肯定的に捉えるのもこのタイプの特徴です。例えば部活動で他の部員を巻き込んで結果を出したいという場合、かなりの忍耐力とモチベーションが必要です。自己統制的自己効力感は「もうやめたい」「つらい」といった行動や感情をコントロールして成長していく段階に役立ちます。

社会的自己効力感

社会的自己効力感とは、簡単に言い換えれば「自分なら友好的な人間関係を築ける」という自信のことです。乳児期〜幼児期の経験によって発達し、大人になっても持続します。社会的自己効力感が高ければ対人関係がきっとうまくいくという前提に立つため、他者と積極的に関わりを持っていけます。

学業的自己効力感

学業的自己効力感とは学業の場面で発揮される自己効力感のことです。 学校や塾など学業における達成感を味わうことで育まれ、難関校に合格するなど学業で目立った成績を残した人ほど高まります。学生を対象に語られることが多いものですが、社会に出てからも新しいスキルを身につけるときなどに役立ちます。

自己有用感=自分が他者に必要とされているという感覚

自己肯定感や自己効力感を獲得する際は自己評価が基本となりますが、自己有用感は他者からの評価によって獲得されます。相手の存在なしには獲得できない点で自己肯定感や自己効力感と大きく異なります。例えば「自分はピアノがうまい」という自信ではなく「学級で1番ピアノがうまいからと合唱の伴奏者に選ばれた。合唱がうまくいくためには私の力が必要なんだ」といった自信こそ自己有用感だといえます。

自己肯定感、自己効力感、自己有用感が高い子どもの特徴

自己肯定感、自己効力感、自己有用感が高い子どもは、具体的にどのような特徴を持っているのでしょうか。ここではそれぞれの特徴を説明します。

自己肯定感が高い子どもの特徴

自己肯定感が高い子どもには下記3つの特徴があります。

(1)何事にも挑戦する

自己肯定感の高い子どもは成功を前提にするので、チャレンジする機会が必然的に多くなります。その分たくさん成長できるというメリットもあります。

(2)失敗にめげず、次へのバネにする

「自分ならできる」という自信があるため、失敗から学んで粘り強く物事に取り組みます。

(3)自己主張ができる

自己主張を通じて友達と意見の言い合いをすることは、建設的な人間関係を築くことにもつながります。

自己効力感が高い子どもの特徴

自己効力感が高い子どもの特徴は下記の3つです。

(1)学力がアップしやすい

ベネッセ教育総合研究所による「自己効力感が高い小・中学生はどのような子どもか」という調査の結果から、自己効力感の高い子どもほど学力が高いことが分かりました。

(2)何事にも積極的に取り組む

自分の能力に自信を持っているため、いろいろなことに積極的にチャレンジできます。また先述の調査によると、自己効力感の高い子どもは計画を立てて勉強することや、遊びとのメリハリを付けること、難しい問題にじっくり取り組むことが得意で、積極的に勉強に励むことが多いようです。

(3)自分の行動を自分で決められる

自己効力感が高い場合は自分の選択にも自信を持てるため、行動を自分で決められます。行動を自分で決めることは自立の第一歩としても重要です。

自己有用感が高い子どもの特徴

自己有用感が高い子どもの特徴として、下記の3つが挙げられます。

(1)積極的に行動・発信できる

自分の行動が誰かの幸せにつながると考えるため、行動や発信に躊躇することがありません。また先回りで誰かの役に立つことに喜びを感じるので、自ら率先して活動しようとします。

(2)思いやりがある

誰かの役に立ちたいと常にアンテナを張っているため、困った人にすぐ気付き、助けることができます。

(3)人と関わるのが好き

自己有用感が高いと人間関係が良好になり、その結果人と関わることがますます楽しくなっていきます。

日本の若者 は自己肯定感、自己効力感、自己有用感が低い傾向が見られる

日本の若者には自己肯定感や自己効力感、自己有用感が低い傾向が見られます。特に中高生は思春期に入り他人と自分を比較しやすい時期にあるため、自己肯定感が低くなりやすいといわれています。ここでは有名な2つの調査の結果をまとめました。

(1)「子供・若者の意識に関する調査 (令和元年度)」

内閣府による「子供・若者の意識に関する調査 (令和元年度)」では15歳〜29歳の男女へアンケートを行い、その結果から以下のことが分かりました。

・「今の自分が好きか」という自己肯定感に関する質問に「あてはまる」と答えたのは46.5%
・「うまくいくかわからないことにも積極的に取り組む」という自己効力感に関する質問に「あてはまる」と答えたのは51.9%
・「自分が役に立っていないと強く感じる」という自己有用感に関する質問に「あてはまる」と答えたのは49.8%

この結果から、「自分が好きではない」「うまくいくか分からないことに取り組むのは消極的だ」「自分が役に立っていないと強く感じる」と考える若者は約半数に及ぶことが分かります。つまり日本の若者の約半数は、自己肯定感・自己効力感・自己有用感が低い状態にあるといえます。

(2)「高校生の心と体の健康に関する意識調査報告書〔概要〕 ―日本・米国・中国・韓国の比較―」

2018年の独立行政法人・国立青少年教育振興機構による調査では、諸外国と比べ日本の高校生は自己肯定感が低いことが報告されています。この調査は日本・アメリカ・中国・韓国の高校生に対し「私は価値のある人間だと思う」というアンケートを行ったものです。この結果「そうだ」「まあそうだ」と回答した日本の高校生の割合は44.9%で、4カ国中最低でした(韓国83.7%、アメリカ83.8%、中国80.2%)。世界と比較しても日本の高校生の自己肯定感の低さは際立っています。

自己肯定感、自己効力感、自己有用感が低いとどんな問題がある?

自己肯定感、自己効力感、自己有用感が低いとさまざまな問題が生じます。この問題を理解してこそ、3つの感覚を伸ばすことの大切さを改めて実感できるでしょう。そこで、ここでは自己肯定感、自己効力感、自己有用感が低いと生じる問題について説明します。

自己肯定感が低い場合

自己肯定感が低いと生じる問題は下記の3つです。

(1)主体的な行動を取りづらい

自分の考えに自信がないため「人からどう思われるか」が気になり、目立たないように行動する傾向が強まっていきます。頼みごとを断れなかったり何事も相手に決定を依存したりするため、人間関係に苦しさを覚える場合も多いようです。

(2)チャレンジすることに臆病になる

「自分にはできない」と思い込んでしまうため、自分を信じて行動することが困難になります。その結果チャレンジにも消極的になる傾向が強まっていくのです。

(3)他者と自分を比較して劣等感を抱きやすい

自分に自信がないゆえに、他者と比較しなければ自分の価値を見出せません。他者のいいところが目につき自分をネガティブに捉えたり、自分より優れている人に対して攻撃的になったりする場合もあります。

自己効力感が低い場合

自己効力感が低い場合「どうせ失敗する」「自分には無理だ」と真っ先に考えてしまうため、行動を起こすためのモチベーションが減退する問題があります。またやる気が出ないために能力を発揮できず、結果を示せない状態が続くと、それが原因でさらに自己効力感が低下するという悪循環に陥ってしまうことがあります。

自己有用感が低い場合

自己有用感が低い場合の問題として、下記の3つが挙げられます。

(1)自己肯定感が低くなる

誰からの評価も得られず自己有用感が低下すると「自分はダメな人間だ」と感じるようになり、自己肯定感も自ずと低下してしまいます。その結果自暴自棄になったり「困っている人を助ける」といった社会的規範意識が低くなったりすることがあります。

(2)自分には居場所がないと感じる

家族関係や友達関係の中で自己有用感が低いと、自分の居場所がないように感じてしまいます。不登校や引きこもりに発展するケースもあるようです。

(3)すぐに諦めてしまう

人は自分を必要としてくれる相手がいてこそモチベーションを保って努力できるものです。しかし自己有用感が低い場合は努力し続けることが難しく、すぐ諦めてしまう傾向があります。

自己肯定感、自己効力感、自己有用感を高める教育のポイント

教育現場で子どもの自己肯定感、自己効力感、自己有用感を高めるためには押さえたいポイントがあります。実際の取り組みも交えつつご紹介するので、ぜひ指導の参考にしてください。

自己肯定感を高めるポイント

自己肯定感を高めるポイントは下記の2つです。

(1)良さの気付きへのサポート・評価を行う

教員は子どもが自身の良さに気付けるようにサポートや評価を行うことが大切です。例えば小学校では子どもが日記などで自分を振り返り、教員がこれに対して自分の良さに気付けるような助言を書き加える取り組みが挙げられます。中学校以上では生活の中で教員が生徒の良さを見つけて価値付けたり、他者からの評価を受ける場面を設定したりするといいでしょう。

(2)努力を評価する

子どもが自分自身が努力したことを認識できるよう、努力を評価する仕組みづくりを行うこともポイントの1つです。例えば小学校であれば児童が取り組んだことを掲示などで学級全体に紹介するのも有効です。中学・高校では生徒が努力して取り組んだことを教員が十分に認め、次の活動につなげられるよう助言することが重要です。

(3)他者から承認される機会を十分に設ける

内面の感情を話したり、人前で発表をしたりするのは恥ずかしいものです。しかしそれを聞いた人に受け止められることで自己肯定感は育っていきます。作文や演劇など自分を出す表現活動を集団で行い、発表者に対してクラス全員が「よくやったね」というメッセージを伝えたり、肯定的な感想を伝えたりする時間を大切にしましょう。

自己効力感を高めるポイント

自己効力感を高めるには、下記3つの体験ができるようにサポートすることが必要です。

(1)達成体験=自分が何かを達成した経験

子どもが自ら目標を立て、実際に行動し成功した経験ができるようにしましょう。部活動や受験が代表的ですが、課題解決学習など自ら仮説を立てて行動するような活動も適しています。その際、目標の高い・低いに関係なく、子どもが「目標を達成できた」と思える一連のプロセスを体験することを重視するのがポイントです。

(2)代理体験=自分以外の誰かが何かを達成するのを観察すること

他者の経験を疑似的に体験することで、自身の自己効力感が高まることがあります。代理体験ができる活動として、例えばOB・OGの話を聞くキャリアトークや、著名人の映像や書籍から学習する活動などが挙げられます。ただ見聞きするだけではなく、併せて自分に活用できそうなところはどこか振り返り考えることが大切です。

(3)言語的説得=自分に能力があることを言語的に説明されること

子どもが言語的に他者から励まされる経験を持つことも大切です。例えば個人面談や日々の活動の褒めなどで教員からの励ましを受ける経験や、グループワークの中で友達から認められる経験などが挙げられます。

自己有用感を高めるポイント

自己有用感を高めるポイントは、下記の3つです。

(1)子どもと対話する機会を十分に持つ

子ども1人1人にとって安全と感じられる居場所をつくるためには、子どもに対する深い理解が必要です。子どもと対話する機会を十分に持つようにしましょう。挨拶がない子どもや様子が気になる子どもに対し積極的に声をかけたり、子どもの話を最後まで聞く姿勢を見せたりすることも大切です。

(2)子どもが認めてもらいたいところを褒める

教員が子どもの努力の過程を認めて褒めることは重要です。失敗も認めて励ますことで次の活動への意欲につながります。ここで気を付けたいのは、あくまでも子どもが認めてもらいたい点を褒められてこそ自己有用感が高まるということです。世間や周囲の子どもと比べて大人の基準で褒めるのではなく、子どもが自分なりに努力・工夫した点をありのままに認めるようにしましょう。

(3)それぞれに活躍の場を設ける

子ども1人1人に活躍の場を設けることも必要です。その行動が集団でどのように役に立ったか教員が価値を付けて褒めることにより、子どもは自分がクラスの一員として重要であると自覚できます。また活躍の場を設けるための取り組みとして、異年齢の交流活動が推進されています。異年齢で交流を行うと経験や体力の差に応じて自然と役割が生まれ、年長者は自然とリーダーとして活躍の場が得られるでしょう。年少者からの喜びや感謝の声は、年長者が自己有用感を育む一助になるといえます。ある小学校の取り組みでは、異年齢の交流活動を行った結果、他人とうまく関わりを持てることを高く評価できる児童が増え、併せて学校への適応感も高まったと報告されています。

まとめ

自己肯定感、自己効力感、自己有用感は、自分自身をポジティブに捉え自信を持って行動していくために必要な基本的な感覚です。日本の若者は自己肯定感、自己効力感、自己有用感が低いといわれており、子どもたちにはこの感覚を育てていくためのサポートが必要です。教育現場では特に、子どもの努力する姿を教員が捉え積極的に認めることや、他者から承認される機会を十分に設けることなどを大切にしていきましょう。

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