PBLとはどんな学習方法?特徴や授業の進め方、事例を解説

2024/03/05(火)

教育現場で注目されているPBL。PBLという言葉を聞いたことがあるという教育者の方も多いはずです。あらゆる教育現場でPBLの導入が進められていますが、PBLとはどのような授業なのか、PBLの授業はどのようにして進めるのかなど、まだまだわからない方もいるでしょう。そこで本記事では、PBLの概要や効果、PBL実施にともなう課題などについて詳しく解説していきます。また、PBLを実践している大学の例も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。

PBLとはアクティブラーニングの手法の1つ


PBL(Project Based Learning)は、日本語で「問題解決型学習」や「課題解決型学習」と呼ばれる学習スタイルです。PBLでは、生徒自身が課題を見付け、その課題を自ら解決する能力を身に付けることを目指します。生徒は、課題に対する仮説を立て、課題解決に向けて調査と検証を繰り返すのです。1990年代初頭にアメリカの教育学者John Dewey氏によって提唱されたPBLはアクティブラーニングの手法の1つで、日本では文部科学省によって教育現場への導入が推進されています。

PBLはなぜ注目されている?

PBLが注目される理由は、文部科学省がアクティブラーニングの導入を推進しているからです。文部科学省がアクティブラーニングを推進する背景には、テクノロジーの進歩やグローバル化など、急速な社会の変化があります。日々変化し続ける社会で求められるのは、他者を尊重しつつ自ら問題解決を行い、社会を創造する力です。従来の学習法では身に付けることが難しかった問題解決能力や創造力を習得するために、アクティブラーニングが導入されました。PBLは現代社会に必要なアクティブラーニングの1つであるため、教育現場で注目されているのです。

PBLと の違いは?

SBL(Subject Based Learning)とは、教師が教科書に沿って授業を進める学習スタイルのことです。PBLとSBLの違いは、それぞれの学習過程にあります。SBLでは、まず基本的な知識を学び、身に付けます。その後、身に付けた知識を実践に活かすための課題が提示され、生徒はその課題に取り組むのです。一方、PBLでは、はじめに課題が提示され、生徒自身で課題解決に必要な知識を学びます。その後、身に付けた知識を用いて課題解決に臨むというのがPBLの学習プロセスです。PBLとSBLでは学習順序が異なり、それぞれ別のプロセスで学習が進められます。

PBLの2つのアプローチ方法


PBLでは、生徒が主体的に学習に参加し、問題解決能力を身に付けるために、2つのアプローチ方法を実施しています。PBLのアプローチ方法は以下の通りです。

・チュートリアル型
・実践体験型

それぞれの特徴について確認しておきましょう。

チュートリアル型

1つ目はチュートリアル型と呼ばれるアプローチ方法です。チュートリアル型では、少人数にグループ分けされた生徒がグループワークやディスカッションを通して、問題解決に向けた取り組みを行います。問題解決の取り組みの中で、教師は指導を行いません。教師はチューターという立場で、生徒を問題解決に導くための助言を与えます。このチュートリアル型では、生徒の自主性が育まれること以外に、他者との意見交換によって尊重性や多様性が身に付くことも期待できます。

実践体験型

2つ目のアプローチ方法は実践体験型です。実験体験型のPBLでは、地域・社会と連携しながら、問題解決の取り組みを行います。生徒は実際の現場に足を運び、地域や社会の実情を把握しながら問題解決に取り組むのです。実践体験型では、生徒自身が教室の外に出て、現場で実践的に学習するからこそ、学んだことが定着しやすいとされています。しかし、実践体験型は地域・社会との連携が欠かせません。事前に協力の交渉が必要になるなど、教員側の負担は増えてしまうでしょう。

ベーシックなPBL の進め方5ステップ


ここまで、PBLの概要やアプローチ方法について解説してきました。では、PBLの授業は実際どのように進められるのでしょうか。基本的なPBLの進め方には5つのステップがあります。

1,課題の設定
2,情報の収集
3,情報の整理と分析
4,課題解決策の実践と検証
5,まとめ・表現

ステップごとに活動内容をまとめました。それぞれ解説していきます。

課題の設定

PBLの最初のステップは、日常生活や社会における問題を見付けることです。その後、何を解決したら問題が解消するのかを考え、課題を設定します。生徒は自分の興味・関心があるテーマから、実際の生活や社会が抱えている課題を取り上げます。取り上げる課題は、そもそも解決の可能性があるのかを考えることも必要です。教員側は、生徒が興味・関心に触れる機会を普段から作ることを心がけましょう。また、生徒が設定した課題や解決策が、適切なものであるか、声をかけながら生徒自身に気付かせてあげることが大切です。

情報の収集

課題を設定できたら、課題解決のための情報を集めます。生徒はどのような情報が必要なのか、どのような方法で情報を集めるのかを確認してから、実際に情報収集に移ります。そのとき、書籍やインターネットからの情報以外にも、生徒自身が感じたことや思ったことも大切な情報の1つなので、合わせて言語化しておくようにしましょう。課題に対する知識を深め、課題解決の方向性を見出します。情報収集に際して教員側は、生徒が最初に設定した解決策や問いに対応した情報を集められるよう導きます。また、集めた情報だけでなく、情報元となった書籍やWebサイトも一覧で記録させるようにしましょう。

情報の整理と分析

集めた情報を整理し、比較したり因果関係を見付けたりして、それらの情報を分析します。情報の整理では集めた情報を確認し、数値情報はグラフにおこします。その後、比較・分類・関連付けなどを行い、情報を分析しましょう。分析結果をもとに、解決策についてまとめ、必要であれば解決策を見直し、修正します。教員側は、他教科や他授業との関連性を生徒に意識させることが大切です。例えば、数値をグラフ化する場合、数学の要素が含まれていることを生徒に伝えます。また、生徒が自分に都合の良い情報ばかりを使用しないように、随時サポートすることが必要です。課題の解決策を上手く言語化できていない生徒に対しては、どこでつまづいているのかを気付かせてあげましょう。

課題解決策の実践と検証

情報の分析結果をもとに、課題解決に向けた実践と検証を行います。生徒はまず、実践の計画を立てます。どこで・誰が・何をするのかなど、具体的な計画を立てることが大切です。一通り計画が立てられたら、実践に移ります。外部と連携して実践を行うのも良いでしょう。実践の結果、どの程度課題が解決できたのかを検証し、自身の気付きや学びについてまとめます。教員側は、生徒が計画をしっかり立てられているのか、実践結果の検証方法が考えられているのかを確認します。生徒が外部との連携を望む場合には、連絡や日程調整などのサポートを行いましょう。実践だけでなく、検証にも十分時間を設けるよう生徒に呼びかけます。

まとめ・表現

最後に、情報分析、実践・検証を通して分かったことや、生徒自身が考えたことなどをまとめ、他者に伝えます。発表をする際には、誰に何の目的で伝えるのかを意識して、発表の方法を考えます。その後、アウトラインや原稿の作成、練習を行い、実際に発表に臨みます。発表して終わるのではなく、PBL全体を振り返り、学んだことや今後につなげたいこと、さらには自身の進路について考え、表現することが大切です。レポートや論文にて表現する場合は、教員が正しい手順やルールについて指導しましょう。また、教員側は次なる取り組みのために新たな課題に気付かせたり、将来の進路について考えさせたりと、今度につながるような取り組みを生徒に行わせます。

PBLの実施が生徒にもたらす 4つの効果


PBLを実施することで、生徒には以下の4つの効果がもたらされます。

・自主性が育まれる
・表現力やコミュニケーション能力の向上につながる
・知識が定着しやすく応用する力も付く
・情報リテラシーが身に付く

それぞれ詳しく解説していきます。

自主性が育まれる

PBLを実施することで、生徒の自主性が育まれます。PBLの授業において生徒は、設定した課題を解決するために必要な知識や情報を自分で学びます。初めはどのように学習したら良いのか困惑する生徒もいますが、教員が適切な助言を行うことで自主的に学ぶ力が身に付くのです。生徒が能動的に学習する機会を与えるPBLでは、自然と生徒の自主性が育まれます。

表現力やコミュニケーション能力の向上につながる

表現力やコミュニケーション能力の向上も期待できます。PBLでは課題解決のために、習得した知識や情報をグループ内で共有します。グループのメンバーとディスカッションを行い、自分が学んだことや考えたことを表現することが求められるのです。また、ディスカッションにおいては、自分が主張するばかりでなく、他者の意見を聞くことも大切です。グループワークやディスカッションを通して、生徒は表現する力や他者を尊重しながらコミュニケーションを取る力を向上させていきます。

知識が定着しやすく応用する力も付く

知識が定着しやすく、定着した知識を応用する力が付くのも、PBLがもたらす効果の1つです。前述の通り、生徒は必要な知識を自主的に学びます。ただ受け身で知識を教え込まれるのとは違い、自主的に得た知識は頭に残りやすいのです。そのため、知識が定着しやすいといわれています。また、PBLの授業では、学んだ知識を課題解決のために応用することが必要です。課題解決のプロセスを経て、生徒は自ずと応用力を身に付けていきます。

情報リテラシーが身に付く

情報を適切に活用する力である情報リテラシーの習得にも、PBLは効果を発揮します。生徒は書籍の中やインターネット内にある膨大な情報の中から、必要な情報を抜き出し、集めなければなりません。また、集めた情報を見返して、どの情報が正しいのか、信ぴょう性に欠ける情報はないのかなど、情報を見極める必要があります。PBLの授業ではたくさんの情報を扱うため、情報と上手く付き合う力や、情報を正しく活用する力が身に付くのです。

PBLの実施にともなう3つの課題


PBLは生徒の自主性やあらゆる能力を向上させる画期的な学習スタイルですが、実施にあたってはいくつか課題点もあります。PBL実施にともなう課題は以下の3つです。

・適切な指導ができる人材の確保が必要
・客観的な評価が難しい
・学習効果が予測しづらい

PBLの良い面ばかりではなく、課題点も把握しておきましょう。

適切な指導ができる人材の確保が必要

PBLの課題の1つが、適切な指導ができる人材を確保しなければならないということです。チュートリアル型でPBLの授業を実施する場合、生徒に助言を与えるチューターが必要になります。チューターは助言を与えることによって、生徒を課題解決へと導かなければなりません。そのため、チューターにPBLについての正しい知識がなければ、質の良い授業にはならないのです。どの教育現場でも均質な授業を提供するためには、PBLを正しく理解した人材の確保が必要になります。

客観的な評価が難しい

PBLの授業では客観的な評価が困難です。授業としてPBLを実施する以上、教員側は個々の生徒の取り組みに対して成績を付ける必要があります。しかし、生徒が自主的に学び問題解決に挑むPBLでは、テストの点数のように、画一的に点数を付けることはしません。そのため、教員側は生徒1人1人を客観的に評価することが難しくなってしまうのです。客観的な評価が困難なPBLにおいては、個々の生徒の取り組みをどのように評価するのかを考えなければなりません。

学習効果が予測しづらい

学習効果が予測しづらいこともPBL実施にともなう課題の1つです。PBLの授業は、教員が生徒に知識を教え込むわけではないので、設定する課題や生徒の知識量、生徒の取り組み方によって個々の学習効果は異なります。課題や生徒によっては、あまり学習効果が得られないということもあるでしょう。教員側が生徒それぞれの学習効果を予測し、把握することは困難であり、均一の学習効果を与えづらいという点が、PBLの抱える課題です。

PBLを実践している日本国内の大学の例


実際にPBLを実施している大学は多くあります。PBLを実践している大学の1つが三重大学です。三重大学では初年度に行うセミナーでPBLを実践したり、教員マニュアルに沿って通常の講義にも段階的にPBLを導入したりと、学生と教員の両者がPBLに対する理解を深められるよう工夫しています。多摩美術大学でもPBLは実践されています。宇宙の衛星からのデータを芸術に応用するプロジェクトや、廃棄物とデザインを掛け合わせて環境保全に貢献する研究などが多摩美術大学のPBL事例です。他にも多くの大学でPBLは実践されています。これからPBLの授業を行うという教育者は、これらの実践例を参考にすると良いでしょう。

まとめ


PBLは、生徒が自ら課題を見付け、課題を解決する力を習得するための学習スタイルです。生徒は能動的に授業に参加することで、問題解決能力以外にも自主性や表現力、知識の応用力などを身に付けていきます。PBLはまだ導入が進められている段階のため、いくつか課題点もあるのが実情です。これからPBLに携わるという教育者は、課題点も含めPBLの授業のやり方について考えていきましょう。

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