学校統廃合における問題点とは?現状やメリット、事例も紹介

2024/02/20(火)

現在、日本各地で小・中学校の統廃合が進められています。しかし、学校統廃合は何のために行われるのか、統廃合によってどのようなメリットが生じるのか、疑問に思う方もいるのではないでしょうか。そこで本記事では、小・中学校の統廃合の背景をはじめ、統廃合の問題点やメリットについて解説します。学校統廃合の実例も紹介しているので、学校教育に携わる方はぜひご一読ください。

文部科学省が進める学校統廃合の現状


日本で学校の統廃合が始まったのは、今から60年程前です。現在の取り組みに至るまで、国は数回にわたり学校統合に関する手引きや方向性を通達してきました。統廃合の問題点やメリットに触れる前に、文部科学省が学校統廃合を進める背景や現状を把握しておきましょう。

学校統廃合が推進される背景

学校教育において、児童・生徒の資質や能力を伸ばすためには、学校にある程度の規模を確保し、多様な意見に触れたり切磋琢磨したりすることが大切だとされています。そのため、国は1956年に初めて「学校統合の手引き」を作成し、翌1957年に小・中学校の学校規模の標準を定めました。1957年に定められた標準は、学校規模が12〜18学級、通学距離が小学校においては4㎞以内、中学校においては6㎞以内というものです。その後、学校規模の適正化を重要視するあまり無理な学校統合を行う地域が出てきたため、1973年には、地域の理解を得て統廃合を進めることや、小規模校を存続させた方が良い場合があることなどが通達されました。各市町村の取り組みにより、小規模校は減少し、標準規模を満たす学校が増えてきています。

2015年に改訂された「公立小中学校統廃合の手引」の方向性

2015年に策定された「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」では、学校規模の適正化や適正配置(通学条件)が見直され、学校統合を含む学校づくりの細かい方策が示されました。学校規模の適正化について従来の手引きと異なるのは、12〜18学級といった学校規模の標準に加え、標準を下回る場合の対応が細かく提示されている点です。例えば、1〜5学級の小学校において、複式学級(学年の違う児童が混在する学級)がある場合、学校統合などの対応を速やかに検討する必要があるとしています。学校の適正配置(通学条件)においては、従来の通学距離の基準(小学校は4㎞以内、中学校は6㎞以内)はそのままに、通学時間の基準が加えられました。通学時間の基準は、スクールバスなど適切な交通手段が確保できる場合に限り、1時間以内を目安にするというものです。しかし、1時間以内はあくまで目安であり、判断は各市区町村が行うため、場合によっては1時間以上が許容されることも考えられます。また新たな手引きでは、適切な学校づくりの手段には、学校統合・小規模校の存続・休校した学校の再開があるとし、それぞれの手段における方策が提示されました。

学校統廃合の進行の実態

平成31(令和元)年度、令和2年度、令和3年度の統合件数の合計は437件でした。内訳は以下の通りです。

・平成31(令和元)年度111件
・令和2年度168件
・令和3年度152件
・その他6件(複数年度にかけて統合した事例)

統合の形態別に見ると、小学校同士の統合が273件、中学校同士の統合が94件と、小学校同士の統合の方が多い傾向にあります。他にも、新たな教育機関を設置するための小・中学校の統合や、小中一貫校の整備を含む小学校同士、または中学校同士の統合も行われました。通学手段の1つであるスクールバスの導入については、統合前の156件に対し、統合後は325件に増えており、統合による通学の長距離化でスクールバスの必要性が高まったことがうかがえます。また令和3年の調査では、77%の市区町村が学校の過大規模、もしくは過小規模に関する問題を抱えていることが明らかになりました。

学校の統廃合における問題点・課題


学校規模の適正化を目指して、各地域で統廃合が行われています。しかし、統廃合を行う際には問題点や課題にも留意する必要があります。当然、学校が変われば従来の通学路ではなくなり、場合によっては通学手段が変わることもあるでしょう。また、統廃合で、学校がなくなることによる地域への影響や、環境変化による児童・生徒への影響も考えられます。学校の統廃合には、あらゆる問題や課題があるため、学校・地域・保護者が協力、理解し合い、課題解決の方策を検討することが大切です。ここからは、統廃合がもたらす問題点や課題について詳しく解説していきます。

通学環境・通学手段への影響

統廃合によって、通学環境や通学手段が大きく変わる場合があります。統廃合が行われれば、これまで通りの通学路というわけにはいきません。懸念されるのは、新たな通学路に安全性が確保されているかどうかです。学校は地域や保護者と協力し、安全な通学路決定のための調査を行う必要があります。場合によっては、スクールゾーンを定めたり、交通規制を行ったりといった整備なども必要でしょう。また、中にはスクールバスや公共交通機関を利用しなければ通学できない児童・生徒も出てきます。前述の通り、スクールバスなどの通学手段が確保できる場合は1時間以内を目安としますが、場合によってはそれ以上の通学時間が適正とみなされるため、一部の児童・生徒の通学の長距離化が懸念されます。

地域コミュニティへの影響

統廃合は、地域の衰退をもたらす可能性があります。学校には、児童・生徒の学びの場としてはもちろん、避難所、遊び場、地域のイベント会場など、地域住民の交流の場としての役割もあります。いわば、学校は地域の核。しかし、統廃合が行われれば学校がなくなる地域もあり、本来学校が地域に対して担うべき役割が機能しなくなります。また、統廃合後の長距離通学を避けるために、新校舎近隣への転居を考える人もいるでしょう。転居する家庭が増えれば地域内の子どもの数は減り、結果的に地域の衰退化が生じる恐れも出てきます。通学の長距離化により、地域住民と子どもたちが互いに触れ合う機会の減少も懸念されます。さらに、学区が変更になれば居住地域外の学校に通うこともあるため、子どもたちの地域に対する思い入れが薄れることもあるでしょう。地域と子どもの関係性が弱まることで、地域全体の衰退が進む懸念があります。

児童・生徒への影響

児童・生徒には、身体的かつ精神的疲労の他、教育面における弊害がもたらされると考えられます。当然ながら、統廃合が行われれば教育環境は大きく変わります。児童・生徒の中には、新校舎や新しい集団への適応に対して、精神的疲労を感じる子もいるでしょう。また、バスなどによる長距離通学は、児童・生徒へ身体的疲労をもたらすだけでなく、それぞれの基礎体力の低下も招きます。通学にかける時間が長くなれば、児童・生徒は家庭学習や習い事にかける時間の確保が難しくなるでしょう。時間の制約を受けることは、児童・生徒が能力を伸ばそうとする機会が失われることにもつながりかねません。さらに、学校の規模が大きくなることで、学校行事における1人ひとりの出番は少なくなり、個々の自主性や自立性が育たなくなる恐れもあります。

学校の統廃合がもたらすメリット


学校の統廃合が行われる目的は、教育活動の多様化、豊かな人間関係の獲得、社会性の向上などを促すことにあるため、統廃合のメリットは大きいといえます。メリットを享受できるのは児童・生徒だけではなく、教育指導や教職員へも良い影響がもたらされます。ここでは、学校統廃合がもたらす主な3つのメリットについて見ていきましょう。

人間関係面のメリット

統廃合によって人間関係面でのメリットが期待できます。主に以下のようなことが挙げられます。

・規模が大きくなることで他者とのつながりが広がり、コミュニケーション能力が高まる
・集団遊びが可能になり、外遊びが増える
・集団での振る舞いを身につけ、社会性が育つ
・人数が増えることでクラス替えが可能になり、人間関係が固定されない
・他の児童・生徒や多数の教員の意見・考えに触れ、多様性が身につく
・良い意味で競争心が芽生え、向上心が高まり、たくましさが身につく

大人数の中で生活することで、児童・生徒1人ひとりの能力が向上します。

教育指導面のメリット

教育指導面のメリットは、以下の通りです。

・集団授業だけでなく、少人数のグループ活動なども可能になり、指導方法の幅が広がる
・児童・生徒から多様な意見を引き出しやすくなり、授業の質が上がる
・体育科のチーム競技や音楽科の合奏・合唱など、集団活動の実施が可能になる
・中学校においては、生徒のニーズに応じた部活動が運営できる
・運動会や文化祭など、学校行事に活気が出て、教育効果が上がる

集団指導・少人数指導両方の良さを生かした指導が可能になります。

学校運営面のメリット

学校運営面にも、以下のようなメリットがもたらされます。

・小学校では専科教員が配置でき、中学校では全教科に専任の教員を配置できる
・学校規模が大きくなることで教員数が増え、教員同士が切磋琢磨できる環境になる
・学校運営を複数の教員で担うことで、各個人に大きな負担が生じにくくなる
・教員の特性・経験・専門教科を考慮し、バランス良く配置できる
・教員が出張や研修に参加しやすい環境になる
・子ども1人当たりにかかる経費が少なく済む
・PTA活動において、保護者1人ひとりの負担が減る

教員数が増えることで、適切な役割分担が可能になり、学校運営がしやすくなります。

学校の統廃合の事例と問題点の克服方法


教育者である限り、学校統廃合の当事者になる可能性はあります。ここからは学校統廃合の事例と問題点の克服方法について紹介していきます。実際の例から、問題点や課題の克服方法を学びましょう。

都市部にある中学校の事例

ある都市部の中学校では、中学校5校を1校に統合する取り組みが行われました。この事例の特徴は、統廃合を地域主導で行ったことです。地域住民と保護者が中心となり協議を重ね、行政はあくまでサポートというスタンスで学校統合を進めました。この事例で問題点として挙げられたのは、通学手段と使われなくなった学校の利用法についてです。通学環境が変化し、長距離通学を強いられる生徒に対しては、自転車通学を許容することで、通学の困難さを解決しています。地域住民・保護者が早い段階から通学に関して話し合い、自転車通学を取り入れる方策を打ったことで、統廃合はスムーズに進みました。また、統合後に使われなくなる4校に関しては、有効活用することで問題解決に至っています。4校のうち2校には、統合校のグラウンドが設置されました。また、1校には不登校の生徒や学齢超過の夜間生徒のための中学校を新設し、もう1校は地域の3つの小学校の統合校とすることで有効化に成功しています。

農村・漁村部にある小学校の事例

2つ目の事例は、農村・漁村部の隣接地域の4つの小学校の統合事例です。当該地域の中学校敷地内に、統合後の新校舎を構え、小中一貫教育を視野に入れた統合が行われました。この事例では、大半の児童が長距離通学になることと統合に対してマイナスイメージを持たれる恐れがあることが問題点・課題点として挙げられました。統合後、3分の2の児童が徒歩での通学が困難になりました。しかし、当該地域に路線バスが充実していたことから、バス便の確保や道路整備などを進め問題点を解決しています。保護者が中心となり、通学路の調査、道路管理者・警察との対策協議、路線バス運行会社への交渉を行い、バス通学の環境を整えました。さらに、通学距離にかかわらず、通学費の4分の3を補助する取り決めをしています。また、隣接地域の小学校同士の統合だったため、小さな学校が大きな学校に吸収されたというマイナスイメージが持たれやすく、地域の活気が失われることが懸念されました。マイナスイメージを払拭するために、人手が足りない地域の行事に近隣地域の住民の参加を促したり、統合予定校同士の交流授業・合同行事を行ったりなど、あらゆる取り組みを行い、懸念点を解決しています。統合前から交流を深めることで、マイナスイメージを持たれることなく、統合を成功させました。

まとめ


学校統廃合の取り組みは1950年代から行われており、学校規模の適正化に向けた標準が定められていました。2015年の改定では、従来の手引きが見直され、地域の実情に合った学校づくりを推進するよう促しています。学校統廃合には、あらゆる問題点・課題が生じるため、学校・地域・保護者が連携して進める必要があります。一方で、統廃合によって多くのメリットが得られることも覚えておきましょう。今回ご紹介した2つの事例も参考にしていただき、教育者として学校統廃合に関する知識を持っておきましょう。

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