『すらら』軸にしたICT三本柱で相乗効果
浪速高等学校・中学校
組み合わせで相互補完する三本柱
ICT教育には、指導業務や学習の効率化などさまざまなメリットがある。それは事実だが、一方で「これ(何らかのICTツール)を導入するだけで効果が得られる」と安易かつ過度な期待を寄せ、思った成果が得られなければ「使えない」「役に立たない」と、原因をツールの性能の問題として片づけてしまう残念な事例も少なくない。
こうした問題に対し「組み合わせが重要だと思います」と語るのは、浪速高等学校・浪速中学校(大阪市)の下園晴紀教諭。
同校は2016年度から本格的なICT教育に着手、Google提供のグループウェア『G suite for Education』、オンライン学習システムの『すらら』、それらを活用する基本デバイスとして『Chromebook』をその三本柱に据えて環境整備を進めた。つまり「組み合わせ」だ。「それ単体で何かしようとするのでなく、自分たちの抱える課題解決のために、必要なICT環境やツールで相互補完するイメージですね」と同教諭。その具体的活用法を見てみよう。
協同学習を重視するからこその、基礎学力回帰
同校での『G suite for Education』導入は、データや情報の共有が可能な特性を活かして、協同学習に用いることが主な目的だった。新しい学習指導要領や大学入試制度への対応を考える上でも、こうした学習様式への転換は全国レベルで進んでいる。しかし、その有用性が語られる一方で、改めて課題も浮かび上がってきた。基礎学力の問題だ。
協同(協働・共同)学習のように「自ら考え、判断する」学びを活かすには、そもそも「自ら考え、判断する」ための土台や材料となる前提知識、すなわち基礎学力が欠かせない。これからの学力観では思考力が重要だとは言うものの、それを重視するあまり、暗記や知識量を求める学習を軽視するのは間違いだろう。
同校も例外ではなく、生徒一人ひとりの能力伸長のため、習熟度別学習は必須だったと言う下園教諭。そこで、組み合わせの“2番目のパーツ”として用いられたのが『すらら』だ。『すらら』は学びの個別最適化に強みを持つ学習システム。個々の現有学力やつまずきの原因を診断し、学習者に合ったレベルのドリルや問題を自動出題する機能が好評だ。
特に同校の場合、生徒間の学力や学習意欲の振れ幅が大きく、多様な生徒層に対応する必要があった。いわゆる特進系・通常系のコースがあるほか、運動部・文化部ともに強豪クラブを多数擁し、そちらの活動に時間を取られる生徒も多いためだ。そこで放課後の補習や家庭学習用に『すらら』を用いて基礎学力向上を図ったが、効果も顕著だったと言う。例えば英語では、『すらら』受講層と未受講層で英検取得率に倍以上の差異が見られたほか、定期考査においても如実に成果が表れた(表1・表2)。
あえてタブレットでなくノートPC
“3番目のパーツ”である『Chromebook』はどうだろうか。近年の教育ICT化の現場で好まれるタブレット端末でなく、あえてノートPCタイプである『Chromebook』を選んだのは、『すらら』での活用を想定してのものだった。
『すらら』の学習コンテンツは、キーボードのタイピングによる回答入力と相性の良い単元も多いためだが、それだけが理由ではない。「タブレットのように直感的な操作ができることは便利ですが、キーボードで入力する、すなわち『書く』という行為は学習の基礎リテラシーでもあります。そこをおろそかにしたくなかったのです」と下園教諭は明かす。すなわちこれも「組み合わせ」の妙だと言えよう。
『G suite for Education』で協同学習をやりたい。そこに必要な基礎学力向上のためにも『すらら』を活用したい。『すらら』をより活かし、基礎リテラシーを高めるために『Chromebook』を使いたい。これらがバランスよく三位一体となって、それぞれに効果を発揮しているのである。
アナログな指導力あってのICT
「組み合わせる」という発想は、何もICTの機器やシステムだけに限った話ではない。「ICTとアナログ」というペアリングも重要だ。同校は、クラブ強豪校であるがゆえに教員もその指導に時間を取られがちで、放課後補習指導との両立も課題となっていたが、その点も改善を見せた。『すらら』は個人学習ツールであり、基本的に指導者が終始そこにいる必要がないためだ。
教員は『すらら』の学習ログから生徒の学習時間や進捗を把握し、活用を促せばいい。その部分をアナログで行うのだ。「課題ごとにどの生徒が学習をしているか、していないかが一目瞭然ですからね。やっていない生徒は居残りです」(下園教諭)。
すべての生徒が能動的・意欲的に学習に取り組んでくれることが理想なのは、誰もが分かっている。しかし現実として、初めから全員がそのような学習姿勢であることは稀だ。時に強制力を働かせることも必要であろう。もちろんそこには生徒との信頼関係も重要で、だからこそのアナログなのだ。
同校では生徒たちにもそのルールが浸透し、教員が「『すらら』はできているかい?」と問えば「期限内にできていないと居残りになるよ」という意味だと生徒も理解する、と下園教諭は笑う。『すらら』が予習復習や、家庭学習を示すメタファーになっているのだ。
「最初は強制やペナルティとしての要素を持つ学習だったとしても、生徒たちも何のかんのと、誰がどれだけ勉強して、どのくらい力が伸びているのかは興味があるみたいです。英検や定期考査における『すらら』の成果を示せば、やる意義も見出せます。導入して4年、少しずつですが、着実に主体的な学習姿勢に変わってきていますよ」と下園教諭。現在は反転学習にも応用していると言う。
「どんなICTツールの導入であれ、最終的には組み合わせとアナログ要素がその成否を分けると思います。『G suite for Education』にしても、『すらら』にしても、『Chromebook』にしても、非常に便利なアイテムですが、あくまで補助的存在。導入すれば成果が出るわけではないのです。それを生徒たちにどう使わせるか、利用率を上げるか。アナログな教員の指導力が問われますよね」と自戒を込めるように語った。