「すらら」本格始動に向けたトライアルの1年
水戸女子高等学校
水戸女子高等学校は、2019年3月に「すらら」を導入した。2020年度の新1年生を対象に「すらら」を本格始動するため、現在は1年をかけた準備期間の真っ只中。数学科で試験的に「すらら」を活用した取り組みを重ねている。
1931年創立の水戸女子高等学校は、茨城県ではじめて女性が商業を学ぶ学校としてスタートした。現在は、商業科(会計情報)と普通科(選抜進学、教養進学、福祉実践)で4つのコースを有する。「社会に貢献する女性を育成する、それを通して幸せになるための力を育む、これが建学精神で本校の目的」と鈴木康之校長。学校の中で生きる力や姿勢が育まれる。学力も幸せにつながる一つ。達成感や成就感が、やがて大人になって何か乗り越えるべき時に、自分の可能性を信じて立ち向かえる人材になる。その基本である学力の向上のためにも「すらら」との縁は大切にしたいと語る。「トップダウンが多いと失敗もある。課題を成長の糧に、教員がやりたいことをやらせたい」と現場に立つ教員の考えを尊重する。
導入は即決、準備はじっくりと
「すらら」導入のきっかけは、学年主任の西内豊人教諭と2年生数学科の鈴木元基教諭が参加したすららネットのセミナーだった。
同校ではパソコン教室が2部屋あり、デスクトップPCを80台保有している。西内教諭は、「1人1台端末の環境などすぐに全ては揃えられません。順次拡大は必要ですが、今できる取り組みを考えながらセミナーを聞いていたところ、本校の足りない部分を『すらら』がちょうど補ってくれる気がしました。生徒の学力差が課題の一つで、いかに基礎を固めて伸ばしていくか。生徒それぞれの学力向上に個別対応できる『すらら』の有効性を感じました」と振り返る。
セミナーの帰り道、同行した鈴木教諭の意見を聞くと一致していた。すぐに校長に導入の意向を伝え打診。2019年2月の出来事。その翌月「すらら」導入が決定する。電光石火のようだったと西内教諭。次年度の費用の話が出た時期でもあり導入は早急に動いたが、過去には急いで導入して失敗した例もあったため、実際に授業で活用するまではじっくりと準備期間を設けて「すらら」と向き合いたいと考えたという。
すららセミナーの出会いから実現した他校との交流
「すらら」活用の準備期間として数学科の3名の教諭がトライアルを実施した。どのような使い方が良いかをそれぞれ6月頃から1カ月半かけて試行し、刷り合わせ、方針を決めていくことにしたという。ある程度の方向性が固まった8月末、再び参加したすららネットのセミナーで出会ったのが、開星中学校高等学校の副校長で数学科の村本克教諭の授業。そのスタイルを参考にするため、島根県松江市から村本教諭が水戸女子高に来校しての模擬授業が実現した。取材当日はその様子を見ることができた。
パソコン教室で行われた1年生数学「二等分線」の単元。はじめに「すらら」のアニメーションによる解説で、二等分線の概要と設問を把握する。次に手元のまとめプリントに学んだことを記入し作図のワーク、最後に「すらら」上でパソコンを操作して作図を仕上げるというもの。
生徒の大高さんに授業の感想を聞くと、「はじめは『すらら』のコンパスの操作に手こずりましたが、やっていくうちに慣れました。イヤホンで聞けるから普通の授業より集中できる感じです。数学は苦手ですが、アニメーションの解説はわかりやすいし、パソコンの授業は新鮮さがあって楽しいです。『すらら』は戻して見ることができるから自分のペースで勉強できるし最後までちゃんと理解できます」と好印象の様子だ。
トライアルから見えてきたもの
この日、模擬授業を受けた1年生を普段担当する数学科の山崎光教諭は、トライアルでは、授業でしたことの復習として『すらら』を週1回活用した。「使い方がわかると各自でどんどん進んでやっていくようになり、期末テストの結果にはいい兆候が見られました。課題が一斉配信できるのもいいですね。説明自体は『すらら』に任せて、生徒が問題につまっていないかなど合間の指導が以前よりしやすくなりました」と手応えを感じている。
2年生の選抜クラスを担当する鈴木教諭は、生徒が自分で足りないと思う基礎力を「すらら」で定着させる指導をした。「2年生になったばかりだったのでトライアルでは2年生の内容に限定し、控えていた模試の対策としても活用しました。週4回授業があるうちの3回分の授業内容の課題を『すらら』で出し、週1回、自分の基礎力を定着させる時間にしました。課題の進捗状況は良かったです。期末テストにも『すらら』から問題を出すと告げると、そこは全員できました。授業では時間的に既習部分を飛ばさないといけない時もありますが『すらら』は1から10まで説明してくれるのがいいですね」。生徒の姿勢にも変化が表れた。「『すらら』を使うのは1時間目。普段はチャイムと同時に授業にすぐ入れないこともありますが、あの時ばかりはイヤホンをしてPCに向かってみんな黙々とやっていました」。アニメに取っ付きにくい生徒もいるが、トライアル後も試したいと希望した生徒には「すらら」を継続させているという。自身のクラスは「すらら」と相性が合ったようだと感触を語る。
2年生の関根さんは、自ら希望して「すらら」を継続している1人だ。「授業でも十分かなと思ったのですが、『すらら』はユニットも多くあり、細かく丁寧に教えてくれるので、自分の基礎力の定着にすごくいいと感じました。同じ説明を繰り返し聞けるし、間違えや重点的にやったほうがいい部分をまとめて自動出題してくれるのもいいです」と語る。受験で国語と英語を使うため、現在は、家庭学習でその2教科を「すらら」を使って学んでいるという。今後も英検や受験勉強に向けて活用したいと意欲的だ。
進路指導部長で数学科の原島聖司教諭は、担当する3年生のゼミで「すらら」を活用。「生徒は選抜クラスで数学が苦手な3人でした。センター試験の数学I・数学Aの学習に『すらら』を使いましたが、翌週のゼミまでに課題を出すものの取り組みの形跡がなく苦戦。センターを受ける前提の生徒たちでしたが、結局3人ともセンターで数学は使わないことになり自然消滅のかたちに」と勉強の方向性が合致しなかったと明かす。他方で、自由な取り組みに重きをおいて試した経緯から、「ある程度しっかり計画を立て生徒に提供することが学習の定着には大切だと実感しました」と今後のヒントを得たようだ。
学習指導部長の長谷川英治教諭は、「新鮮さ」が1つのポイントでかつ警鐘だと説く。「ICT活用ははじまったばかりで生徒にも目新しさがあると思います。しかしこのまま進み電子画面が続くと飽きたり疲れてしまったりするでしょう。授業でも、教科でも、生徒の習熟度でも、学習の目的に応じて棲み分けるICT活用が大切になると感じます」と見解を示した。
それぞれのトライアルから浮かび上がってきた成果や課題。一方で、今回の取り組みを通して別の側面からも実現したい願いがある。教職員間の連携だ。全員を巻き込みたい。担当者だけが動くのではなく全職員の意識を同じ方向に向けていきたいという思い。「良い力を持った教員たちが個の良さを失うことなく、学校全体が同じベクトルになってレベルアップし成長していきたい」と鈴木教諭は力を込める。他の先生たちも賛同の表情。機運の高まりが見て取れる。西内教諭は、「学力の基礎を固めたり伸ばしたり、もともと丁寧にやっていた学校。その良さを生かし『すらら』とさらに伸ばしていきたい。まずは新1年生の数学科でICT活用を軌道に乗せ、その後、全学年で活用となった時に一本の道ができているようにしたいです」と意気込みを語った。
最終的に子どもたちが人生で幸せを得ることが教育、建学精神に則りながら時代を読み解いていく不易流行が大事と明言する鈴木校長。いよいよ来春から「すらら」の本格始動に乗り出す水戸女子高等学校。創立89年目にまた一つ新しい出発点を迎える。