全日制単位制高校とは、平成5年度から導入された新たな高校教育システムのことです。設立されて27年が経ち、年々学校設置数が増えているとはいえ、全日制単位制高校についてよく分からないといった教育者・学校の先生も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、全日制単位制高校の概要や特色、メリット、課題について解説します。併せて、全日制課程や単位制の概要についてもご紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
高校の全日制単位制とはどんな仕組み?
高校の全日制単位制とは、平成5年度から設置された新たな学校教育システムを取り入れた学校のことです。3年間の区切りがある一般的な高校生活を送るわけではなく、決められた単位数を獲得できれば卒業することができます。ここではまず、全日制課程と単位制について解説していきます。
全日制課程とは
全日制課程とは、3年間の区切りが設けられている一般的な高校のことを指します。1年ごとに取得科目や教科が決まっており、全ての単位を取得することで卒業できます。ここからは、さらに詳しく全日制課程の特徴や定時制・通信制との違いについて触れていきます。
全日制課程の特徴
全日制課程は、学年制を主体としており、毎日の時間割が決められています。そのため、単位の取得漏れが発生することがなく、3年間での卒業が可能になります。学校によっては、1週間の授業数が大きく異なるのも全日制課程の特徴です。
定時制・通信制との違い
全日制課程と定時制・通信制との違いは、授業数や授業を受ける時間帯、単位取得の基準などです。例えば、全日制は午前中から夕方まで授業を受けるケースが一般的ですが、定時制・通信制は夕方から夜にかけて授業を受けるのが特徴的です。また、定時制・通信制は1日4時間といった限られた時間の中で授業をこなしていきます。他にも、定時制・通信制によっては、単位取得の方法がレポート提出の場合があります。中間テストや期末テストで単位取得が決まる全日制課程とは異なり、日々のレポート提出が単位取得の鍵になるため、3年で卒業できるとは限りません。
単位制とは
単位制とは、一部の全日制高校や通信制高校などで取り入れられている教育制度のことです。各科目・教科で単位が設定されており、3年間の在籍数と必要単位数を満たせれば卒業することができます。ここからは、さらに詳しく単位制の仕組みや学年制との違いについて解説していきます。
単位制の仕組み
単位制は、卒業するために在籍数と単位取得が必要になります。先述した通り、在籍数は3年です。単位取得数は、学校教育法によって74単位以上を取得することと決められています。そのため、3年間の在籍数と74単位以上の必要単位数を取得した生徒のみが卒業を認定される仕組みとなっています。単位制の仕組みから3年間で卒業するのではなく、自分のペースに合わせた学習方法で3年以上かけて卒業する学生も多くいるのが特徴的です。
学年制との違い
単位制と学年制との違いは、単位数の設定方法です。単位制であれば卒業までに74単位以上を取得することで卒業が認められます。しかし、学年制は1年間ごとに単位数の設定が決まっています。そのため、1年間で必要単位数を取得できなければ、留年といった形が取られてしまうのが学年制の特徴です。その点も留年制度が基本的に存在しない単位制との大きな違いといえます。
全日制単位制の高校の数は年々増えている
全日制単位制の高校の数は年々増加傾向にあります。各年数の増加傾向は以下の通りです。
上記の表をご覧いただければ、平成22年度〜平成28年度まで、全日制単位制の高校数が年々増加傾向にあることが分かるでしょう。特に大きな変化としては、平成25年度~平成28年度の3年間で、100校以上の全日制単位制の高校が設置されていることです。これは、文部科学省が掲げている生徒の能力・適正・興味・関心・進路等の多様化に対応した特色ある学校づくりの推進による影響だと考えられます。
全日制単位制高校の特色
ここからは、全日制単位制高校の特色について詳しくご紹介していきます。
生徒が興味関心に合わせて履修科目を選択できる
全日制単位制高校では自分自身で授業を選択できるため、興味関心に合わせて履修科目を選択できます。近年、必修科目を中心に選択科目が充実している高校が多くなっています。そのため、進学や資格取得など、高校卒業後の目標に向けて履修科目を選択できるのも全日制単位制高校の特色の1つです。
個々のペースで学習を進められる
全日制単位制高校では自分で自由に時間割を組めるため、個々のペースで学習を進められます。そのため、卒業ギリギリの74単位だけ取得して、自分の時間を作る生徒もいれば、単位を気にせず自分の興味関心がある科目で時間割を組む生徒もいます。自分で時間割を組み、個々のペースで学習が進められるとはいえ、74単位分の取得は必須です。そのため、教員側が生徒の興味関心や卒業後の目的に合わせて時間割のサポートをする必要があります。
少人数制の授業が多い
全日制単位制高校は少人数制の授業が多く用意されています。なぜなら、全日制単位制高校では必修科目以外の選択科目は希望者のみの授業になるため、少人数制の授業が多くなるからです。そのため、全日制単位制高校では1人1人の生徒をサポートする体制を取ることが可能になり、生徒が勉強についてこられないといったことが起きにくくなる傾向にあります。
留年の制度がない
全日制単位制高校は学年ごとに必要単位数が決まっていないため、留年の制度がありません。学年の概念が全日制単位制高校にはないため、年齢を気にすることなく高校生活を送れます。また、3年間での卒業を考えていない方であれば、焦ることなくゆっくり勉強を進められます。留年の制度がないことで、余裕を持って好きな勉強ができるのが全日制単位制高校の特色の1つです。
特色のある科目を選択できる学校が多い
全日制単位制高校の中には、特色のある科目を用意している学校が多くあります。例えば、社会であればアジア史や近現代、理科であれば地学、体育であればニュースポーツなど学校によって導入されている科目はさまざまです。そのため、全日制単位制高校に着任する教員は、特色のある科目に合わせた知識の収集や勉強が必要になります。
クラス単位の活動が少ない
全日制単位制高校はクラス単位の活動が少なくなっています。そのため、集団行動が苦手な方や人間関係を煩わしく感じる生徒が過ごしやすい学校制度になっています。とはいえ、クラス単位の活動が少ないということは、コミュニケーション不足や社会に対応できないなどのデメリットの懸念にもなるでしょう。そのため、教員側も積極的にホームルームの時間を作ったり、生徒同士の交流が深まる機会を考えたりといった、懸念点へのフォローが必要です。
全日制単位制高校の教育面のメリット
全日制単位制高校の特色を上手く活用することで、以下のようなメリットを期待できます。
翌年の再履修がしやすく習得につなげやすい
全日制単位制高校では学年ごとに必要単位数の取得が義務付けられていないため、翌年の再履修がしやすくなります。その結果、学年制の高校で学ぶよりも学問の習得につなげやすくなります。また、単位を取ることではなく、学問の習得を目的とした授業を行えるのも、全日制単位制高校の特徴といえるでしょう。
進学ニーズに応じて個々にカリキュラムを組みやすい
全日制単位制高校では、進学ニーズに応じて個々にカリキュラムを組みやすくなっています。高校生の場合、生徒によって就職を選んだり、進学を選んだりとさまざまな進路に歩みます。また、進学といっても出願の方法や難易度などによって勉強方法が異なるでしょう。学年制では、学年ごとの必要単位数に合わせてカリキュラムが設定されるため、1人1人に合わせたカリキュラムを組むことはできません。しかし、全日制単位制高校では、必要単位数さえ取得すれば問題ないため、進学ニーズに応じてカリキュラムを組めます。
全日制単位制高校の課題
ここまで全日制単位制高校の特色やメリットについてご紹介してきましたが、課題もあります。ここからは全日制単位制高校の課題と解決策を3つ解説します。
履修をコーディネートする体制の整備
全日制単位制高校は履修をコーディネートする体制が整っていません。そのため、生徒が自由に履修科目を選べるといった特徴を生かしきれていないケースがあります。そのため、これからの全日制単位制高校では履修によるガイダンスやそれぞれの科目が自分に最適なのかどうかを考えさせる時間などを作ってあげる必要があります。
生徒が集団の一員であるという意識希薄化への対策
全日制単位制高校において、生徒が集団の一員であるという自覚が薄れているという課題が浮かび上がっています。この学校形態では、「学年」の概念が希薄であり、生徒たちは異なる学習スケジュールや様々な時間帯で活動しています。将来的には、社会での協力やコミュニケーションが求められる場面が増えますが、高校生活での集団への希薄な意識は、卒業後の課題となる可能性があります。
この問題に対処するためには、教員が特に注意を払い、生徒たちに協力し合う機会を提供することが重要です。定期的な集まりやグループ活動、クラス単位でのプロジェクトなど、特定の時間帯に生徒を一堂に集める機会を設けることが求められます。これにより、生徒たちはお互いの存在をより意識し、協力することで集団の一員としての経験を積むことができるでしょう。
特色ある教育を継続的に提供できる人材や財源の確保
全日制単位制高校では、特色ある教育を継続的に提供できる人材や財源の確保が課題として挙げられます。全日制単位制高校では一般的な高校に比べ、特色のある科目が用意されていますが、それらを指導できる教員は不足しています。そのため、特色ある科目を生徒に指導できる教員の確保が大きな課題といえるでしょう。また、全日制単位制高校は特色のある科目を選択できるのがメリットの1つです。その特性を生かすためにも、特色ある教育を継続的に提供できる財源の確保も欠かせません。
まとめ
全日制単位制高校はさまざまな悩みを抱えた生徒でも通いやすい学校制度をとっています。ただし、過度な自由さがもたらすシチュエーションにおいて、生徒たちが迷子になることもあるでしょう。教育現場では、生徒たちが抱える思いや将来について的確に理解することが重要です。全日制単位制高校の特徴や利点、同時に抱えるべき課題を理解し、それぞれの生徒が輝く未来に向けてサポートしていきましょう。