全3回の連載、こちらは第1回目の記事です。[第2回はコチラ][第3回はコチラ]
[若杉祥太先生]1986年生まれ大阪出身。大阪教育大学・同大学大学院で情報教育学や教科教育学(情報)の教育研究に従事するとともに、同大学附属高等学校で情報科の実践教育を担う。日本教育情報学会副会長、日本情報科教育学会評議員
2022年度から高等学校情報科の必修科目になり、2024年度からの大学入学共通テストに加わる「情報Ⅰ」。現代の情報化社会に必要な学びとなる「情報Ⅰ」も、ICT教材「すらら」の新コンテンツとしてすららネットから2025年4月にリリースされます。
そんな今注目の「情報Ⅰ」について、その展望やポイントをすららの「情報Ⅰ」を監修する若杉祥太先生に伺い、3回の連載でお届けします。まずは監修者の若杉先生のご紹介からスタートします。
情報教育を現場の教員が どのように行うべきかを日々研究
監修者の若杉先生の1日は、大阪教育大学附属高校の情報授業にはじまり、大学・大学院での研究、大学講義や論文作成指導、日本教育情報学会運営、他共同研究で終わるといいます。
大学院の研究というのは、各教科の授業をどのように行うのかを論理的に筋道を立てる教科教育学で、若杉先生は「情報科」が専門です。社会課題の解決に役立つビッグデータの活用やデータ分析といったデータサイエンスの授業を、教員がどう実践すべきかについて研究をしています。
高校の情報科が必履修になった2002年度当初は、情報A・B・Cの3科目から1科目を選択し、その後プログラミングを含む「情報の科学」と情報リテラシーを中心に扱う「社会と情報」のいずれかを選択するものでしたが、2022年度からは新たに再編され、必履修の「情報Ⅰ」、選択履修の「情報Ⅱ」になりました。現在全国の高校生が学んでいる「情報Ⅰ」の教科書は、Pythonのように汎用性が高く、特にデータ解析に強いプログラミング言語を学ぶ内容になっています。
「表計算・集計・可視化、データ分析、利活用…。これからの時代データサイエンスは実務に不可欠な知識です。<情報Ⅰ>は、プログラミング言語の学習が大変という方が多いのですが、学び方の問題と思っています。プログラミングは反復学習、疑問点の調べ学習、実践しやすい教材を利用し、学び方を学び、習慣化されることで自然と習得でき苦手意識が克服されていきます。一般的にPythonは高度な言語という印象があるのですが、実は初心者に向いている言語で、小中学の時からパソコンに触れている今の生徒たちですと、読みやすく、エラー処理をしやすいなど、授業でも扱いやすく習得しやすいプログラミング言語かと思います。またデータサイエンス教育いわゆるデータ分析の学習には、日常生活の中で興味のあるテーマ(問題)を題材に、臨場感あるデータを用意し、データの分析・可視化を行う中で、学習者間で深い議論を重ね論理的な思考力を養い知識創造を図る(解決)など体験的に学ぶ教育が必要です。学校現場には、そういった知識教授型授業から問題解決を通して知識創造型の授業を展開できる先生が必要です」と若杉先生。従来の知識教授型の教育と問題解決を通した知識創造型の情報教育の違いを理解し、適切に指導する情報教育の専門性を持つ教員が求められる中で、若杉先生の実践的な研究には、大きな期待が寄せられています。
何でも挑戦してみる ポジティブマインドな少年時代
情報教育の授業や指導について深い所感を述べる若杉先生ですが、ご自身は一体どのような環境から現在の職業に至ったのでしょう。そんな質問にも答えていただきました。
若杉先生がパソコンを使い始めたのは小学校の中学年頃とのことで、「その時、このマシンの中からさまざまな情報が出てくることに驚きました」と、父親のパソコンに初めて触れた時のそんな記憶があるとのこと。それからコンピューターやプログラミングに親しみ、初めて自分でプログラムを作成したときの感動を今でも忘れられないそうです。
そして、若杉先生はこう続けました。「僕は両親から、特に勉強で何かを教えてもらうことや、プログラミングなどの習い事をやらされたことはありませんでした。ただ、モノを大切にすることや責任感の大切さはしっかりと言われてきました。「継続!」「忍耐!」「行動!」という3つの行動は両親の教えからで、それが専門性にこだわったり、受験勉強に役立ったりしたと思います」。
一方で、物静かなパソコン少年というわけでもなかったそうです。「小学生のころ一部の友達からは『昆虫』というあだ名で呼ばれていたんですよ。なぜかと言うと、体がカブトムシのようにコロンとしていて、しかも筋肉がカチカチだったから。カブトムシってそんな感じでしょ? 僕は小さい頃から体を鍛えることが大好きで、体操や筋トレに夢中になっていました」という若杉先生。当時の憧れはジャッキー・チェンやアーノルド・シュワルツェネッガーといった筋肉系俳優だったそう。今でも、ウェイトトレーニングをしていつも筋肉痛でないと落ち着かないと、続けているそうです。
また、常に努力を継続してきたため勉強もスポーツも得意で、さまざまな選択肢を考えながら自己の成長を図ってきた中学・高校時代。「勉強でも何でもポジティブ志向で、自分で問題解決のために動き続け、僕の当時のあだ名は『委員長』でした!」と笑いながら教えてくれました。科学や宇宙の分野にも興味があり、「宇宙から突然隕石が!という設定がたまらなかった」と、好きだった映画は「アルマゲドン」。読んだ本は実用書がほとんどで、唯一記憶に残る文学作品は「ハリーポッター」ですが、「選んだ理由は見た目が分厚く達成感がありそうと思ったから。でも意外と面白かったです」。
そんな、勉強、スポーツ、パソコン、etc.…と自己実現への強い意欲を持った少年時代から、若杉先生が興味をもったのは「テクノロジーが人々の生活や社会を大きく変える力を持つことを実感する原点となったプログラミングや情報」の世界でした。
生徒のそれぞれの可能性と向き合う 「情報」は未来を創る楽しい教科
大学は情報理工学部が唯一あった立命館大学に進学しました。情報技術を専門的に学び、情報リテラシーの重要性や、正しい情報活用能力が社会全体に与える影響について深く考える中、若杉先生は、情報の急速な進化に教育が追いついていない現状を目の当たりにします。
しかし、教育データの分析・利活用によって、生徒一人ひとりに最適な学びを提供できる、これからの教育の可能性にとても魅力を感じたそうです。若杉先生はこの時の想いを「情報教育を通じて、生徒たちが主体的に学び、創造性や問題解決能力を培うことで、社会に貢献できる人材に育ってほしいと願いました。これらの思いが重なり、情報教育に取り組むことを決意しました」と振り返ります。
実は、若杉先生は滋賀公立高校の教員として授業を受け持った経験もあります。「現在の大阪教育大学附属高校の生徒は、大学入試共通テストの試作問題の8割程度解答できています。ただ、それは進学校の生徒が学び方を学び、身につけているからなんです。どんな生徒でも、これはどの教科も同じですが、学ぶ習慣と自ら考える力が理解の鍵になります。単に暗記してアウトプットさせるのでなく、自分自身で考える力を養うことが情報教育には特に大切で、学びを深めることができます。そして、授業のポイントはインパクト! 始める前に、生徒の興味をどう惹きつけるかですよ。これは進学校でも普通校でも同じです」と、異なる環境での生徒の様子と情報教育の可能性を語ります。
高校生は自ら考える力を持っていると強調し「生徒ひとりひとりの可能性を引き出す情報教育は(面倒くさいところも含めて)楽しい仕事です」と答える若杉先生。
「筋肉は裏切らない! 情報教育も裏切らない!」が、若杉先生から全国の「日本のみならず世界に羽ばたく人材の育成に意欲を燃やす皆さん」に発信するメッセージ。若杉先生の、情報教育に注目です。
若杉先生の、もっと知っておきたい高校の「情報Ⅰ」については次の第2回で紹介します。
【若杉先生が登壇!「情報Ⅰ」オンラインセミナー開催】
10月18日(金)16時から、若杉先生が登壇する無料オンラインセミナー「知識の獲得から共テ対策までオールインワン!AI教材で叶える業務軽減と個別最適化学習の両立」が開催されます。
若杉先生が「情報Ⅰ」の現状の課題と解決法を解説。さらに、ICT教材「すらら」に来年4月から追加される、若杉先生が監修された「情報Ⅰ」のコンテンツや機能についての紹介もあります。ご参加希望の方はフォームからお申し込みいただけます。
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