AARサイクルとは?教育との関係などを分かりやすく解説!

2024/11/22(金)

スキル

制度・政策

AARサイクルとは、教育現場で学習プロセスを向上させるためのフレームワークです。Anticipation(見通し)・Action(行動)・Reflection(振り返り)の3つの段階から成り、学習者が主体的に学びを深めることを目指します。この記事では、AARサイクルと教育の関係性やPDCAサイクルとの違いを解説します。子どもがAARサイクルを実践する際の教師の役割について、理解を深められる内容です。

AARサイクルとは?


AARサイクルとは、OECDが提唱する学習プロセスのことです。Anticipation(見通し)・Action(行動)・Reflection(振り返り)の3段階で構成されています。このプロセスを循環させることで、効果的な学びが実現できます。このサイクルは、不確実な時代に対応する能力を育むために設計されました。学習者はまず未来を予測し、それにもとづいて行動し、その結果を振り返ります。この繰り返しにより、柔軟に対応し、自ら変革を起こす力を身に付けます。AARサイクルの特徴は、計画と実行だけでなく、深い内省と次への橋渡しを重視する点です。これにより、学習者は継続的に成長し、複雑な社会で求められるスキルを獲得します。

AARサイクルのステージ


AARサイクルは、Anticipation(見通し)・Action(行動)・Reflection(振り返り)の3つの段階で構成されています。それぞれのステージについて詳しく見ていきましょう。

第1ステージ(Anticipation)

Anticipation(見通し)は、ただ未来を予測するだけでなく、それを積極的に描くプロセスです。学習者は行動の結果を想像し、未来を先取りしてイメージ体験します。この段階では、過去の経験から主体的に未来を想像する力が求められます。重要なのは、自分の行動が他者に与える影響も考慮することです。個人視点だけでなく、周囲や社会への影響も含めて見通しを立てます。この能力は、複雑な状況下での意思決定や問題解決に不可欠です。

第2ステージ(Action)

Action(行動)は、見通しにもとづいた目的意識を持って実践する段階です。学習者は計画に沿って主体的に行動し、その過程で責任感を養います。この段階では、単なる実行ではなく、目的達成への積極的な取り組みが求められます。予測した結果と現実を比較することで、学習者は柔軟に対応できるようになるでしょう。

第3ステージ(Reflection)

Reflection(振り返り)は、単なる感想や反省ではなく体系的な思考プロセスです。この段階では事前の見通しと実際の結果を客観的に分析・評価します。振り返りの目的は、自己や他者の行動を科学的に検証し、次に生かすことです。このプロセスでは、自己コントロール力が養われます。

AARサイクルは自己調整学習と類似している


AARサイクルと自己調整学習は、構造が非常に似ており、どちらも3つのステージを循環させることで、学習者の主体性と自己管理能力を高めることを目指しています。

自己調整学習に必要な3つの要素

自己調整学習の重要な要素は「動機付け」「学習方略」「メタ認知」の3つです。「動機付け」は、学習への意欲や目的意識を指し、目標設定や自己効力感を含みます。「学習方略」は、目標達成のための具体的な方法や技術であり、効果的な学習手法の選択と実践が求められます。「メタ認知」は、自分自身の学習プロセスを客観的に把握し、適切に調整する能力です。これらの要素は、AARサイクルの各ステージと密接に関連しています。見通しでは、動機付けと学習方略の選択が重要です。行動では学習方略の実践が求められます。そして、振り返りではメタ認知が特に重要です。これらを組み合わせることで、学習者は自律的かつ効果的に学びを進めることができます。

自己調整学習の3つの段階

自己調整学習は、「予見段階」「遂行段階」「内省段階」の3つの段階に分けられます。「予見段階」では、目標設定や戦略選択を行い、モチベーションを高めます。「遂行段階」では、計画にもとづいて学習を進め、進捗状況をモニタリングしながら必要に応じて戦略を調整します。「内省段階」では、学習成果を評価し、目標達成度の確認が重要です。この3段階はAARサイクルと類似しており、それぞれ見通し・行動・振り返りに対応しています。各段階で得た経験や気付きは次のサイクルに生かされ、継続的な改善につながります(※1)。

教育現場の活用

教育現場で自己調整学習を活用するには、その3つの要素(動機付け・学習方略・メタ認知)を柔軟に適用することが重要です。学校や生徒ごとの状況に応じて、最適なアプローチを選び実践することが求められます。この過程で要素間の相互作用を観察し活動を改善すれば、教育の質の向上につながるでしょう。AARサイクルはこの理論と密接に関連しており、見通し・行動・振り返りがそれぞれ対応しています。教師はこのサイクルを意識して、生徒の自律的な学びを支援し、継続的な改善を促しましょう。

「OECD 学びのコンパス(羅針盤)2030」とは?


OECDが提唱する未来の教育ビジョンは、東日本大震災をきっかけに始まったプロジェクトです。変化の激しい社会において、必要なコンピテンシー(高い成果を創出する行動特性)を育成するための枠組みを示しています。

ラーニングコンパスについて

OECDが提唱する「ラーニングコンパス2030」は、予測困難な未来を生きる子どもたちに必要な力を育成するための枠組みです。この中で重視されているのが「生徒のエージェンシー」、つまり子どもたちが自ら目標を設定・行動し、振り返る力です。ラーニングコンパスでは「変革を起こす力のあるコンピテンシー」として、新たな価値創造力、対立やジレンマの克服力、責任ある行動力を挙げています。これらは知識、スキル、態度・価値観の相互作用によって形成されます。さらに、学びを効果的に進めるためのプロセスとして、AARサイクルが提案されています。AARサイクルの繰り返しは、子どもたちの主体的な学びを促進する重要な要素です。

プロジェクトのきっかけは東日本大震災

東日本大震災は、OECDの「学びのコンパス2030」プロジェクトの起点の1つです。この震災を受けて、被災地である岩手・宮城・福島の中高生が参加する「OECD東北スクール」が設立され、地域復興と人材育成が進められました。プロジェクトでは、被災地の農産物流通や探究型学習の開発が行われ、生徒たちは実際に地元の農家や企業と連携し、特産品の流通システムを考案しました。これにより、未来を見据えた教育モデルが形成され、子どもたちは将来の課題に対応するための知識やスキルを身に付けられたといえるでしょう。

コンピテンシーを育てるプロセスがAARサイクル

子どもたちが「社会全体のウェルビーイング(心身共に満たされた状態)」に向けて進むためには、現実の複雑な課題に対応するためにさまざまな「コンピテンシー(高い成果を創出する行動特性)」を身に付ける必要があります。これらのコンピテンシーを育てるプロセスとして、AARサイクルが重要です。このサイクルは、上述の3つのステージから成り立ちます。まず、見通しでは、行動の結果を予測し、未来をシミュレートしましょう。次に、行動では、目的に沿って具体的な活動を実施し、その責任を自覚します。最後に、振り返りでは、行動を客観的に評価し、次のステップに生かすための改善点を見出します。このプロセスを通じて、子どもたちは自己成長を遂げるためのコンピテンシーを獲得していくでしょう。

AARサイクルとPDCAサイクルの違い


AARサイクルとPDCAサイクルは、どちらも改善プロセスを示すものです。ただし、その適用対象と方法に違いがあります。AARサイクルは、個人の学習プロセスに焦点を当てたもので、見通し(Anticipation)・行動(Action)・振り返り(Reflection)を通じて長期的な成長を促すのが特徴です。一方、PDCAサイクルは、組織や集団のマネジメントに用いられ、計画(Plan)・実行(Do)・評価(Check)・改善(Action)を繰り返すことで短期間での成果を目指します。従って、AARはまず行動し、その後に振り返りをすることで柔軟な対応を重視し、個々の学びに適しています。

AARサイクルとPDSAサイクルの違い


AARサイクルとPDSAサイクルは、どちらも改善プロセスを示すものですが、その焦点と適用対象に違いがあります。PDSAサイクルは、ビジネスや組織の継続的な改善に用いられ、計画(Plan)・実行(Do)・研究(Study)・行動(Action)の段階を通じて、プロセスや成果物の向上を目指します。一方、AARサイクルは個人、特に子どもの成長に焦点を当て、見通し(Anticipation)・行動(Action)・振り返り(Reflection)を通じて、長期的な自己成長とコンピテンシー(高い成果を創出する行動特性)の獲得を促す点が特徴です。AARは個人の学習と発達に重点を置き、柔軟性と自己調整能力の育成を重視しています。

子どもがAARサイクルを回す上で教師の役割とは?


教師の役割は、子どもたちがAARサイクルを効果的に回せるよう支援することです。具体的には、授業や学校行事の中にAARサイクルの3つのステージ(見通し・行動・振り返り)を組み込むことが重要です。例えば、文化祭の準備では生徒たちが目標を設定・実行し、結果を評価する機会を提供しましょう。教師自身も、AARサイクルを自らの学びや研修に取り入れることが求められています。これは、OECDが提唱する「ラーニングコンパス」の考え方と一致し、日本の教育改革の方向性とも合致しています。従来のPDCAサイクルと比べ、AARサイクルはより柔軟で迅速な対応が可能です。予測困難な時代において、教師は子どもたちが課題を見付け素早く行動し、常に振り返りながら進められるよう導く役割を担います。このプロセスを通じて、子どもたちの主体的な学びと成長を促進することが、教師の重要な役割です。

まとめ


AARサイクルは、OECDが提唱する教育の新しい枠組みで、見通し・行動・振り返りの3つのステージを通じて学習を進めるプロセスです。このサイクルは、変化の激しい時代に対応するためのコンピテンシー(高い成果を創出する行動特性)を育成することを目的としています。PDCAサイクルとは異なり、個人の成長に焦点を当て、柔軟な対応を重視します。AARサイクルを通じて、子どもたちの自己調整学習能力を高め、未来の社会に必要なスキルを身に付けられるよう支援していきましょう。

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